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開発&コンサルティング

2-2 原価計算入門

原価計算は簿記2級の工業簿記で学びますから、きちんと原価計算を学びたい人は簿記2級に取り組んでください。もちろん、2級(中級)の前に3級(初級)から学ぶ必要がありますが、本書では原価計算の入門から分かりやすく説明いたします。

ただし、本書はコスト削減が目的ですから、簿記(帳簿記録)の詳細な方法は省略します。なお、簿記2級の資格を持っている人は、このページから、「2-7 原価差異の計算と分析」までは飛ばして読んでください。

原価計算を行うためには、まず、損益計算ができなければなりません。そこで、今回は損益計算について説明します。足し算と引き算ができれば、損益計算はできます。損益計算はすべてが、 売上-費用=利益、という基本の式に沿っていますのでそう難しくはありません。実際には、

売上高-売上原価=売上総利益(粗利)
売上総利益-販売費・一般管理費=営業利益

となっています。このうち、売上原価と販売費・一般管理費とをプラスしたものが総原価ですので、

売上高-総原価=営業利益

となります。

売上高
売上原価売上総利益(粗利)
売上原価販売費・一般管理費営業利益
総原価営業利益

販売費と一般管理費は簿記では、「販売費及び一般管理費」と表記しますが、企業では省略して販管費と表記する場合があります。本書では、販売費・一般管理費と表記しています。

ところで、原価計算の専門家や実務家の中には、売上-製品原価=利益、と書く人がいますが、これは間違っているので気を付けて下さい。売上は、1日、1ヶ月、1年などの一定期間における収益(収入)を表す用語ですので、原価も一定期間の原価(期間原価)でなくては計算式が成り立ちません。よって、売上から原価を引いて利益を計算する際の原価は、製品原価ではなく売上原価、又は総原価です。

製品原価は期間原価ではなく、通常、製品1個(又は1ロット)当たりの原価を表す用語ですから、製品原価に対応するのは売上ではなく、価格です。つまり、価格-製品原価=利益、です。このように原価計算の専門家でも基礎的なことを間違えるのですから、気を付けて下さい。実は、筆者も原価計算を学び始めたころには間違っていました。

さて、商業(卸、小売業など)の場合には、さらに、

売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高

となります。期首と期末の商品棚卸高は商品在庫高(金額)のことです。売れ残った商品が在庫となります。なお、売れ残った商品(在庫)の金額を計算することを「棚卸し」と言います。また、1ヶ月、1年など一定期間の最初が期首で最後が期末です。よって、前期に売れ残った(前期末の)商品(在庫)の金額がそのまま当期の期首の金額になります。

期首商品棚卸高当期商品仕入高
売上原価期末商品棚卸高

仕入れた数量から売れ残った数量を引くと売れた数量になりますが、仕入れのために使った費用(仕入金額)のうち、売れた商品の仕入金額が売上原価となります。売れ残った商品の仕入金額は棚卸(在庫)高となります。棚卸(在庫)高は翌期に売れば翌期の売上原価となります。

さて、商業の場合のコスト削減の主な対象は当期商品仕入高と販売費・一般管理費です。では、棚卸(在庫)高は無視しても良いかと言うとそうではありません。

在庫は資金を寝かせて置く、つまり、資金を利用しないで放置することになりますので、ムダになるだけでなく、在庫の維持管理のためにも費用がかかります。さらに、場所(倉庫)も必要になります。

そのうえ、在庫が多いと、傷がついたり、腐ったりして不良品になったり、盗難にあったりしても気づかない場合が多いです。よって、在庫は期首も期末もできるだけ少なくします。大量に仕入れれば割安になるのですが、在庫が多ければかえって費用がかかってしまいます。

製造業の場合には、

売上原価=期首製品棚卸高+当期製品製造原価-期末製品棚卸高

となります。当期製品製造原価と言うのは文字どおり、当期に製造した製品の原価の意味です。よって、製造原価と言えば期間原価になります。製品原価は製品1個、又は1ロットの原価で、製造原価は期間原価なのです。

期首製品棚卸高当期製品製造原価
売上原価期末製品棚卸高

では、当期製品製造原価はどのように計算するのかと言いますと、

当期製品製造原価=期首仕掛品棚卸高+当期総製造費用-期末仕掛品棚卸高

当期総製造費用=材料費+労務費+経費

期首仕掛品棚卸高当期総製造費用(材料費+労務費+経費)
当期製品製造原価期末仕掛品棚卸高

仕掛品(しかかりひん)と言うのは製造途中の部品や製品のことです。簿記では製造途中の部品や製品を、仕掛品と言う勘定科目を設けて扱います。

さて、損益計算はなんだか、いろいろな用語があって面倒ですが、用語の意味さえ理解すれば、ほとんどの計算は足したり引いたりしているだけですから計算は簡単なのです。筆者も最初は用語の意味がよく分からず何度もノートに書いて覚えました。

この当期製品製造原価と言うのが製造業の主なコスト削減の対象となります。期首と期末の仕掛品棚卸(在庫)高が同じだと仮定すると、当期製品製造原価=当期総製造費用となりますので、当期総製造費用を対象にすれば良いことになります。それと、販売費・一般管理費がコスト削減の主な対象となります。また、材料、仕掛品、製品などの在庫をできるだけ少なくします。

結局、製造業の場合には、材料費、労務費、経費、販売費・一般管理費がコスト削減の主な対象です。多くのメーカーのように、工場の経費を製造経費と呼び、販売費・一般管理費を人件費と本社(営業)経費とに分ければ、材料費、労務費、製造経費、人件費、本社(営業)経費の5つがコスト削減の対象になります。

売上高
当期総製造費用販売費・一般管理費営業利益
材料費労務費製造経費人件費本社(営業)経費営業利益
総原価営業利益

なお、最近では販売費・一般管理費を人件費、物流費、経費と大きく3つに分けて管理している企業が多くなっています。その理由は物流費の割合が大きくなっているためです。

さて、材料を購入した数量から使って残った数量(在庫数量)を引けば使った数量が分かります。この製造のために使った数量の購入金額だけが材料費となるのです。前期に残った材料を今期使えばそれも材料費になります。よって、当期の材料費=期首材料棚卸高+当期材料購入高-期末材料棚卸高、となります。

期首材料棚卸高当期材料購入高
材料費期末材料棚卸高

ちなみに、「材料を仕入れる」とは言いません。材料は購入するです。「仕入れる」はそのままの形で販売する場合に使う言葉です。一方、「購入する」は加工したり、消費したりする場合に使う言葉です。家庭でも、いろいろな材料や商品を買って加工(料理)したり消費したりします。

労務費や経費についても材料費と同様に計算すれば良いわけです。労務費や経費は期首と期末の前払い分と未払い分を計算してその月の消費額を算出します。

以上、損益計算の方法を分かりやすく説明するために、仕事を進める順序とは逆の順序で、売上高から材料費の計算までを説明しました。

つまり、材料⇒仕掛品⇒製品⇒売上、と仕事を進める順序で計算すれば、材料を購入して、加工し、仕掛品にし、部品にし、組立てて製品にし、そして販売するという順序で計算することになるわけです。そして、売れた製品の原価、すなわち売上原価を計算して、売上高から売上原価を引くと利益(粗利)が計算できるわけです。


≪参考≫

売上総利益(粗利)を計算するときに、あるいは、売上高と対比して原価率を計算するときに、売上原価ではなく、製造原価を用いて、売上-製造原価=総利益(粗利)、原価率=製造原価/売上高、のように計算する企業がありますが、これは行わない方が良いです。

原価計算の専門家や実務家の中にも、売上-製造原価=総利益(粗利)、と書く人がいます。製造原価は期間原価なので、売上-製造原価=総利益という式は間違いではありませんが、やはり、売上原価を用いた方が良いのです。

その理由は、製造原価というのは文字どおり製造した製品の原価の意味であり、販売した製品の原価ではないからです。つまり、売れていない製品(売れ残った製品)の原価(棚卸高)も加えて利益を計算しているからです。

計算式から分かるように、期首と期末の製品棚卸(在庫)高が同じであれば、製造原価=売上原価となりますが、故意にそうしない限り、通常はそうはなりません。したがって、売上-製造原価=総利益という式は粉飾(利益操作)を疑われる式になるのです。

なぜなら、売上に関係なく製造原価を増減させれば利益操作ができてしまうからです。つまり、実際より多く製造したことにすれば利益が少なくなり、少なく製造したことにすれば利益が多くなるからです。しかも、この粉飾を見破るのは非常に難しいのです。

その理由をこれから説明しますが、その前に確認しておくことがあります。計算式から分かるように、期末製品棚卸高を増減させても同じように利益操作ができます。しかし、期末製品棚卸高は実際に倉庫に行って、売れ残った製品の数を数えれば計算できますので簡単に見破られてしまうのです。

では、なぜ粉飾を見破るのが難しいかと言うと、製造原価の計算をするには仕掛品の棚卸(在庫)高を計算しなければならないからです。しかし、文科系の人にはそれができないからです。

文科系ですから、図面が読めませんし、材料の種類や加工・組立の方法が分からないからです。しかも、仕掛品は製造途中なので、仕掛品の棚卸高を計算するのは理工系の人でもかなり面倒なのです。よって、この粉飾を見破るのは難しいのです。そこで、昔から製造業における粉飾の代表的な手口となっています。

当期総製造費用(材料費、労務費、経費)については領収証や給与明細がありますし、支払いの相手がいるわけですから金額を確認するのは簡単ですが、仕掛品は製造途中ですから在庫金額(棚卸高)を計算するのは簡単にはできないのです。

そこで、文科系の人がどうやって見破るのかと言いますと、売上高に対する仕掛品の回転期間(滞留期間)を見るのです。つまり、

仕掛品棚卸高回転期間(日)=(期首仕掛品棚卸高+期末仕掛品棚卸高)/売上高×365

の計算式で売上高に対する仕掛品の平均棚卸高が何日分あるかを計算し、それを期ごとに比較して、大きな変化がないかどうかを調べるのです。企業は粉飾を隠すために何年にも渡って少しずつ変える場合が多いですから、国税査察官は少なくとも5年間の決算書を調べます。国税査察官はほとんどが文科系ですから、製造現場を見ることはありません。現場を見ても分からないからです。ですから、事務所で決算書などの書類を調べるのです。

そこで、あくどい企業は、さらに見破られないように、子会社や取引先、あるいは別の場所の倉庫などに売れ残った(売れなかった)製品を在庫しておくのです。売れなかった製品の在庫を隠すために、故意に行う場合、この行為を通称、「飛ばし」と言います。飛ばしは「損失を別会社に付け替えてしまう行為のこと」ですが、売れない製品を製造した場合の損失や株式投資の損失などを別会社に付け替えてしまう行為のことで、粉飾の代表的な手口です。

では、なぜ企業は利益操作(粉飾)をするのかと言いますと、実際には儲かっているのに、儲かっていないように見せかけて脱税をしたり、実際には赤字なのに利益が出ているように見せかけて銀行から借り入れしやすくしたりするのです。この両方を行っている企業もあります。このため、帳簿を2つ作り、税務署向けの帳簿と銀行向けの帳簿、いわゆる二重帳簿にするのです。

また、実際の利益に関係なく、毎年ちょっとだけ利益が出ているように見せかけて、税金を少なくし、しかも銀行借り入れもできるようにしている企業もあります。よって、帳簿が1つでも実際の利益とは異なる場合もあります。

ちなみに、コンサルタントは決算書を見ないで、直接、倉庫や製造現場を見ます。粉飾の手口は沢山あるのでコンサルタントは通常、決算書はあまりあてにしません。常に現場を見ます。むしろ、現場を見て問題点を発見するのが仕事です。現場を見て在庫が多ければ、在庫削減が必要だと思うだけのことです。あるいは、現場を見て製造方法が悪ければ助言するのです。

粉飾を発見したり、見破ったりするのはコンサルタントの仕事ではありません。コンサルタントの仕事は顧客企業の課題解決のために提案や助言を行うことです。顧客企業が儲かるようにするのがコンサルタントの仕事です。

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