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開発&コンサルティング

2-13 活動基準原価計算(ABC)

前回説明しましたように、現在では消費者ニーズの多様化による多品種少量生産の増加、消費者ニーズの高度化による製品の高付加価値化、あるいは生産の機械化・IT化などにより、製造原価に占める製造間接費の割合が非常に多くなっています。

このため、製造間接費と操業度とは関連しなくなっています。にもかかわらず、「製造間接費を操業度に関連する物量基準で配賦する」という『原価計算基準』に基づく方法を現在でも多くの企業が採用しています。このため、正しい原価が計算できません。時代に合わなくなった『原価計算基準』に基づく原価計算では、正しい経営判断ができません。これは重大な問題です。

こうした中で、活動基準原価計算(ABC:Activity Based Costing)は、製造間接費を比較的合理的に各製品やサービスに配賦できると考えられている原価計算方法です。

活動基準原価計算は何年ごろ、誰によって、どこの国で開発されたのか、未だに定説がないそうです。しかし、1880年代後半におけるアメリカの製造業で生成し、活用され、開花したそうです。また、Activity Based Costing という名前をつけたのは、R.クーパーとR.カプランだそうです。( 参照:『ABCマネジメント』吉川武男、ジョン・イネス、フォークナー・ミッチェル共著 中央経済社)

さて、活動基準原価計算(ABC)というのは、製造間接費を文字どおり活動(アクティビティ)を基準に配賦しようとするものです。つまり、操業度ではなく、各製品やサービスに関連する活動を基準に配賦しようとするものです。この活動の意味ですが、要するに仕事のことで、作業や業務のことです。よって、活動基準原価計算というのは、製造間接費を各製品やサービスに関連する仕事量(作業量や業務量)を基準にして配賦しようとするものです。

この配賦は補助部門の費用を製造部門に配賦しないで、製品やサービスに直接配賦するのです。その理由は補助部門の仕事量が増大しているからです。つまり、製造間接費のうち主に間接労務費が増大しているからです。また、間接労務費の同大に伴って間接経費も増大しているからです。ちなみに、配賦基準には仕事の時間だけではなく、仕事の時間に比例する仕事の回数や件数などの頻度を用いることもできます。

例えば、間接作業員による運搬作業や修理作業の場合、これらにかかった費用は、運搬時間や修理時間だけでなく、運搬回数や修理回数を配賦基準にして各製品やサービスに配賦することができます。

また、工場管理部門の業務についても同様に、各製品やサービスにかかわった業務時間あるいは業務回数を配賦基準にして配賦することができます。例えば、設計業務の場合、製品別の設計時間だけでなく、設計回数や設計枚数を配賦基準にします。資材調達や生産計画、生産管理や技術管理などの業務についても同様に、各製品やサービスにかかわった時間や回数、件数などを配賦基準にします。

また、これら製品別やサービス別にかかわった業務時間を記録しておけば、間接費ではなく直接費として各製品やサービスに直課することもできます。

以上のように、製造間接費を作業別、業務別の時間や頻度を配賦基準にして、かかわった各製品やサービスに直課、又は配賦するのです。つまり、製造間接費を部門別に集計したり、補助部門費を製造部門に配賦したりしないのです。

ということは、製造間接費だけでなく、販売費・一般管理費についても同様に、かかわった製品やサービス別に直課、又は配賦できるということです。これが活動基準原価計算の優れた点です。

以上のことから分かるように、活動基準原価計算は、

  1. 製造間接費の配賦を、操業度に関連する物量基準ではなく、製品やサービスに関連する活動(作業、業務)量を基準に配賦する。
  2. 製造間接費を部門別に集計しないで、活動(作業、業務)別に集計してから製品別やサービス別に直課、又は配賦する。
  3. 販売費・一般管理費についても同様に、活動別に集計してから製品別やサービス別に直課、又は配賦する。

ということになります。ですから、製造間接費や販売費・一般管理費を比較的合理的に製品別やサービス別に配賦することができるのです。

活動基準原価計算の基本的な考え方は、「企業で発生するすべてのコストは、製品やサービスの販売によって得られる収益によって回収しなければならない。したがって、すべてのコストは製品やサービスに割り当てる必要がある」と言うものです。よって、製造直接費はもちろん、製造間接費や販売費・一般管理費も各製品やサービスに割り当てるのです。

したがって、当然ながら、本社費、事業部共通費、物流費、研究開発費などと呼ばれる費用も各製品やサービスに割り当てます。要するに、活動基準原価計算では、製造間接費や販売費・一般管理費という概念がなくなります。企業で発生するすべての費用は製品やサービスの製造・販売のための費用であると考えるからです。

活動基準原価計算

活動基準原価計算の基本的な方法は、「経済的資源を消費する活動ごとにコストを分類・集計し、その活動の利用度合いに応じて製品やサービスにコストを割り当てる」というものです。

ここで、活動基準原価計算に用いる用語を説明すると、活動ごとにコストを分類・集計したものをコスト・プールと呼びます。また、コストを分類・集計したり、コストを配賦したりする基準をコスト・ドライバー(コスト決定要因、コスト変動要因)と呼びます。

コスト・ドライバーには経済的資源を消費する活動ごとにコストを集計する基準となる資源(リソース)ドライバーと、活動の利用度合いによって製品やサービスにコストを配賦する基準となる活動(アクティビティ)ドライバーとがあります。

活動基準原価計算を行うには、まず、経済的資源(人、物、設備、資金などの経営資源)を消費する活動ごとにコストをプールする必要があります。このためには、資源を消費する活動ごとにコストを集計しなければなりません。このための基準が資源(リソース)ドライバーです。資源ドライバーは資源に応じて最適なものを選択します。

また、活動の利用度合いによってコストを製品やサービスに配賦する活動(アクティビティ)ドライバーには、活動時間を配賦基準にした時間ドライバー、活動の回数や件数、人数などの取引頻度を配賦基準にした取引ドライバーがあります。

ちなみに、コスト・ドライバーという言葉は従来から原価管理に使われている言葉ですので、活動基準原価計算においてはコスト・ドライバーという言葉を使わずに、資源(リソース)ドライバーと活動(アクティビティ)ドライバーを使う企業もあります。

例えば、設計変更は従来どおりコスト・ドライバーと呼び、設計に消費される人件費や経費を設計業務に集計するのは資源(リソース)ドライバー、製品ごとにかかる(配賦する)設計時間は活動(アクティビティ)ドライバーと呼ぶわけです。つまり、原価管理に用いる用語と活動基準原価計算に用いる用語とを区別するのです。筆者もそのようにした方が間違いがないと思います。

しかし、活動ドライバーをコスト・ドライバーと書いてある活動基準原価計算(ABC)の専門書もあります。したがって、活動ドライバーとコスト・ドライバーを区別していない企業もあります。なお、コスト・ドライバーは、「コストをドライブ(駆動)するもの」の意味ですが、日本語としてはコスト決定要因、あるいはコスト変動要因などと呼ぶ方が分かりやすいと思います。実際に、多くの企業ではこのような呼び方をしています。

したがって、活動基準原価計算を行うには活動の分類の仕方とドライバー(集計・配賦基準)を明確にすることが重要になります。

活動基準原価計算のメリットは、既に説明したように、製造間接費を製品やサービスごとに比較的正確に割り当てられるだけでなく、販売費・一般管理費なども製品やサービスごとに比較的正確に割り当てられる点です。

これによって、製造業だけでなく、建設業、卸・小売業、サービス業、金融業などあらゆる業種で、製品・商品別、サービス別、顧客別、取引先別などの原価が明確になります。

さらに、経営戦略やマーケティング戦略に基づく活動ごとの原価計算を行えば、戦略別の原価と製品やサービスの売上との関係も明確になりますので、戦略実施の費用対効果の測定が可能になるわけです。

活動基準原価計算によって、比較的正確な原価計算が出来るようになると、当然ながら原価管理がいっそう重要になります。従来はいくら原価管理が重要だと言っても、その基となる原価が正しいとは言えないので、原価管理がきちんと出来ませんでした。活動基準原価計算を用いれば、原価管理だけでなく、利益管理、予算管理などもしっかりと出来るようになるわけです。よって、会社は確実に儲かるようになるのです。このため、欧米の企業では活動基準原価計算を導入することが常識になっているようです。

ところが、日本の企業においては、活動基準原価計算を導入するのは容易ではありません。日本特有の問題がいろいろあるからです。その第1の問題は日本のホワイトカラーは「活動基準原価計算はめんどうくさい!」と思うからです。しかし、その本音は「管理されたくないから」です。

実際に筆者がコンサルティングを行った数十社の大企業では、そのような意見の人がほとんどでした。日本の多くの企業では、ホワイトカラーの業務の原価管理を行っていないので、当然、そのように考えるのです。しかし、欧米の企業ではそのように考える人はいません。

なぜなら、欧米ではホワイトカラー1人ひとりが職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に基づいて仕事を行っているからです。職務記述書には、職務ごとの時間や頻度が書かれています。よって、欧米の企業ではホワイトカラーの業務の原価管理が容易にできるのです。このため、欧米では活動基準原価計算が急速に普及しました。

そもそも、欧米の企業では、どのような仕事をどのくらいの時間行うのかを基に労働契約を行います。つまり、職務記述書を基に労働契約を行うのです。しかし、日本の企業では就職してから会社の都合で仕事を決めます。よって、どのような仕事を何時間行うのかは、入社してみないと分かりません。つまり、日本では就職ではなく、就社なのです。

ところで、活動基準原価計算にはもっと重要で根本的な問題があります。そこで次回、それらの問題点について説明し、また、次々回、それらに対する対策について説明したいと思います。

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