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開発&コンサルティング

2-11 標準原価計算の問題点

今回は標準原価計算の問題点について書こうと思います。ご存じように、標準原価計算とはあるべき原価を標準原価として予め計算しておき、これを目標原価として実際原価と比較し、その差額(原価差異)を分析することにより、ムダや不能率を削減していこうというものです。

よって、標準原価計算を行うには実際原価計算を行うことが前提になります。つまり、同じ原価対象に対して標準原価と実際原価の両方を計算します。

1.コスト削減のために膨大なコストをかけている。

本来、標準原価計算の主な目的は原価管理にあります。すなわち、原価統制と原価低減です。要するにコスト削減です。ところが、この目的を忘れてしまっている企業が多いのです。と言うのも、コスト削減のために膨大なコストをかけているからです。目的と実施していることが違うのです。まったく意味ないのです。

その1つは予算編成に時間(すなわち業務コスト)をかけ過ぎていることです。製造予算=原価標準×計画生産量ですから、通常、製造予算の編成は原価標準を設定することが中心になります。ところがこの設定に多くの時間をかけているのです。

予算編成は、まず、売上予測を行い、これに基づいて販売計画を立て、売上高予算、及び販売費予算を決めます。次に、販売計画に基づいて計画生産量を決めます。そして、製造予算を決めるわけです。製造予算には材料購買予算、在庫予算、労務費予算、製造経費予算などがあります。

製造予算は、工場で生産する予定のすべての製品の製品別製造予算を合計して算出します。製品別製造予算は製品別の原価標準を基に、製品別製造予算=製品別原価標準×製品別計画生産量として算出します。この製品別の原価標準を設定するのに時間(コスト)がかかるのです。

販売予算(売上高予算、販売費予算)についても編成に時間がかかりますが、外部環境が常に変化するので、将来のことは良く分からないと、最後は、エイヤーで決めてしまいます。ところが、原価標準については、設定の考え方や方法がいろいろあるだけでなく、設定した原価標準と実際原価との差、つまり原価差異が大きければ管理責任を問われることになるので、エイヤーで決めるわけにいかないのです。そこで設定に時間がかかるわけです。

多くの上場企業で予算編成にどのくらいの時間をかけているかと言いますと、管理間接部門全員の業務時間のおよそ10%から20%です。業務時間と人件費は比例しますから人件費の10%から20%でもあるのです。これは、筆者がこれまで業務効率化や業務改革のコンサルティングを行った数十社の上場企業の数字です。しかも、業務時間を実際に集計してみて初めて分かったという企業が多かったのです。

予算編成というのは、通常は年に1回、あるいは2回しか行わないので、多くの時間をかけていることに気がつかないのです。しかし、実際には上司から何度もやり直しを指示されるうえ、管理間接部門のほぼ全員がかかわるので、膨大な業務時間になり多くのコストがかかってしまうのです。実際に、多くの企業では予算編成にほぼ2ヶ月かかっています。コスト削減のために多くの人件費をかけているわけですから、これでは何のための予算編成なのか、また、何のための原価管理なのか分かりません。

さらに、年に1回あるいは2回ではなく、年に4回も予算編成を行っている会社もあります。つまり、半期決算の会社が3ヶ月(四半期)ごとに修正予算を作成したり、四半期ごとに予算編成をしたりしているのです。また、ローリング予算編成と言って、毎月1年分の予算を編成している企業もあります。1ヶ月終了するごとに、次の月から1年分を毎月編成するのです。つまり、既に編成した11ヶ月分を見直しすると共に、新たに1ヶ月分を追加して編成するのです。これでは、予算を実績に合せているようなものです。つまり、予算と実績とに差がないように予算を決めているようなものです。

そのうえ、原価標準を2つも設定している企業もあります。本来、製造予算編成に用いる原価標準と標準原価計算に用いる原価標準とは同じはずです。製造予算=原価標準×計画生産量、標準原価=原価標準×実際生産量ですが、企業によっては製造予算編成には実際原価に近い原価標準を用い、標準原価計算にはムダや不能率のない、あるべき原価標準を用いるのです。

なぜなら、原価統制を行うのは、すなわち製造予算のとおり製造するのは、製造現場の管理者の責任であり、原価低減を行うのは原価管理部門の責任だからです。よって、いっそう設定に時間(コスト)がかかるのです。そして製造現場では、実際原価に近い標準原価を設定しておき、「予算どおりうまくいきました」なんて言っているのですから、あきれてものが言えません。2つの原価標準を設定している企業はまちがいなくこのような企業です。

なお、『原価計算基準』には、標準原価の種類について、理想的標準原価、現実的標準原価、正常原価、予定原価の4種類の標準原価について、次のように書かれています。

「理想的標準原価とは、技術的に達成可能な最大操業度の基において、最高能率を表す最低の原価をいい、減損、仕損、遊休時間等に対する余裕率を許容しない理想的水準における標準原価である」

「現実的標準原価とは、良好な能率のもとにおいて、その達成が期待されうる標準原価をいい、通常生ずると認められる程度の減損、仕損、遊休時間等の余裕率を含む原価であり、かつ、比較的短期における予定操業度および予定価格を前提として決定され、これら諸条件の変化に伴い、しばしば改定される標準原価である。現実的標準原価は、原価管理に最も適するのみでなく、棚卸資産価額の算定および予算の編成のためにも用いられる」

「正常原価とは経営における異常な状態を排除し、経営活動に関する比較的長期にわたる過去の実際数値を統計的に平準化し、これに将来のすう勢を加味した正常能率、正常操業度および正常価格に基づいて決定される原価をいう。正常原価は、経済状態の安定している場合に、棚卸資産価額の算定のために最も適するのみでなく、原価管理のための標準としても用いられる」

「標準原価として、実務上予定原価が意味される場合がある。予定原価とは、将来における財貨の予定消費量と予定価格とをもって計算した原価をいう。予定原価は、予算の編成に適するのみでなく、原価管理および棚卸資産価額の算定のためにも用いられる」

このように、『原価計算基準』にもいろいろな標準原価が書かれているのですから、実際に多くの企業ではいろいろな標準原価を設定しているのです。これでは何のための標準原価なのか分かりません。目標とする原価がいくつもあったのでは、目標を達成しようと努力する人は誰もいなくなってしまいます。したがって、すべての企業が1つの標準原価を設定して製造予算編成、及び原価管理を行うべきだと思います。

2.原価低減の都度、原価標準を改定しなければならない。

原価管理の目的を果たせないもう1つの問題は、技術の進歩や原価低減努力によって原価標準が変わるために、その都度、原価標準を改定しなければならないことです。 材料費や外注加工費などの外部購入費用は、通常は契約で決めるので、そう頻繁には変わりません。したがって、変更があっても予算編成時に改定すれば良いのです。

しかし、設計変更や工程変更、作業方法の変更などがある場合には、そのたびに改定する必要があるのです。これらの変更や改善を日々頻繁に行えば行うほど、原価標準の改定ばかり行うことになるのです。よって、多くの業務時間(コスト)がかかってしまうので、コスト削減のために多くのコストをかけていることになるのです。

だからと言って、原価標準を改定しないでおくわけにはいきません。なぜなら、目標となる原価が信頼できないものであれば、目標を達成しようと努力しなくなってしまうからです。そこで、日々改善を行って原価低減を頻繁に実施している企業でも、原価標準の改定は年に2回、あるいは4回と決めて、原価低減の成果を半年ごと、あるいは4半期ごとに算定しています。

3.原価標準を決めること自体がムダになる場合がある。

根本的な問題もあります。現在では多品種少量生産が当たり前になっていますが、多品種なので原価標準の設定に時間がかかります。しかも、少量生産なので、せっかく時間(コスト)をかけて原価標準を設定しても、設定できたときにはすでに生産終了となってしまう製品もあるのです。ですから、原価標準を決めること自体がムダということになります。

以上の1、2、3の問題点を解決するには、原価標準の設定や改定をより迅速に行うとともに、ITを活用して計算を自動化する必要があります。以前は、製造予算編成(標準原価設定)は年に1回、又は2回行って、実際原価は毎月集計するという企業が多かったのですが、最近ではITの活用により、実際原価を毎月ではなく、毎日集計する企業もあります。

こうなると、いっそのこと標準原価計算を止めてしまおうという企業も現れます。なぜなら、元来、標準原価計算を行っている企業は、生産が終了しないと実際原価の集計ができないために、予め目標としての標準原価を設定しておいて、実際原価が集計できた段階で差異分析を行い、改善を行っていたのです。

ところが、ITを活用することによって、実際原価が迅速に計算できるようになると、標準原価計算を行わないで実際原価計算だけを行えば良いではないかと考える企業も現れます。定期的に原価低減目標を決めて、ムダや不能率を改善すれば良いではないかというのです。しかし、何をムダとし、何を不能率とするかはやはり原価標準の設定の仕方によるのです。

4.現在では原価管理より原価企画の方が重要になっている。

そもそも、標準原価計算というのは製造段階における原価管理のために必要なものです。ところが、現在においては機械化・IT化が進み、多くの製造工程が機械による加工・組立となっており、しかも、コンピュータによって管理されています。したがって、製造段階でムダや不能率を発見してもほとんど製造現場では改善できないのです。なぜなら、ムダや不能率はすでに製品の企画段階や開発・設計段階で織り込まれてしまっているからです。

よって、製造段階でムダや不能率を発見した場合には、企画や開発・設計の見直しを行う必要があるのです。あるいは、当初から製品の企画や開発・設計を行う際に、ムダや不能率が発生しないようにするのです。つまり、原価企画が必要なのです。元来、原価企画の方が原価管理よりもコスト削減効果が高いのです。したがって、現在では製造段階における原価管理よりも、企画段階や開発・設計段階における原価企画の方が重要になっているのです。

<参考>

以上の問題点により、現在では標準原価計算に基づく原価管理を行う企業が減ってきました。ただし、念のために書いておきますが、今まで標準原価計算を行ったことのない企業が、単純に標準原価計算は必要ないと勘違いしないようにして下さい。なぜなら、あるべき原価(目標原価)を設定しなければ、成り行き任せになってしまい、ムダや不能率があっても分からずコスト高となってしまうからです。

本来、標準原価はIEの考え方に基づき、科学的、統計的な調査によって設定するわけですが、企業によっては、これまでの経験から簡略化して設定しています。例えば、製品種類別や製品ロット別ではなく、製品グループ別や製品カテゴリー別に設定するのです。要するに、製品の分類基準(大分類、中分類、小分類)によって目標原価を決めて原価管理ができるようにすれば良いわけです。

ただし、この方法もこれまで標準原価を基に原価管理を行った経験がなければできません。また、製造段階での改善の経験が充分になければできません。あくまで、このような経験が充分にある企業の方法です。

また、目標原価を企業独自の方法で決めて原価管理を行っている企業では、標準原価計算は『原価計算基準』に基づいて簡略化して行い、原価管理は管理会計として詳細に行っているのです。つまり、原価管理を標準原価計算とは切り離して行っているわけです。標準原価設定の経験があれば、設定方法は分かっているわけですから、企業独自に管理すべき原価項目を決めれば良いわけです。そして、目標原価は工場現場の実態に合わせて細かく設定し、多くのコスト変動要因(コスト・ドライバー)を決めておいて、これを管理するわけです。

つまり、コスト・ドライバー別にコスト低減率を毎月の目標として設定し、それを管理するわけです。したがって、標準原価と実際原価との差異分析を行うよりも、コスト・ドライバー別に分析・管理する方がより細かく、より厳しく管理することができるのでコスト削減効果が高いのです。しかも、この方が現場の作業者・管理者には分かりやすく管理しやすいわけです。例えば、「作業ミス」「不良率」「設計変更」「手待ち時間」などをコスト・ドライバーとしてこれらの損失コストを管理するわけです。

また、原価管理システムを導入している企業では、原価標準をデータベース化し、必要なデータを入力することにより自動的に標準原価計算ができるようになっています。そのうえ、これまでの経験により、どのような変更あるいは改善が行われれば原価標準のどの部分がどのように変わるかが分かるので、簡単に原価標準データを修正することができます。

原価管理システムを導入するには、原価標準の設定の仕方や標準原価の計算方法が分かっていて、それらをシステムに組み込まなくてはなりません。したがって、標準原価計算についての知識・経験が必要です。しかし、このような知識・経験がないにもかかわらず、原価管理システムを導入すれば簡単に原価管理ができると思い込んでいる企業が多いです。このような企業がムダな投資をすることになります。

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