目次

開発&コンサル手イング

第6回 山の歩き方は、グー、チョキ、パー

山小屋で数人が話をしているのを、近くで聞いていた。1人が、静加重静移動とか、2本のレールとかと言っている。それを聞いている数人が、一生懸命に復唱して覚えようとしている。テレビで放映した、山でバテない、ゆっくりと歩く方法についての話らしい。

何か変だなと私は思った。バテないゆっくり歩く方法?それを頭で覚える?何を言っているんだろう。歩くペースは体で覚えるしかないだろう。そのためには練習するしかないはずだ。

以前、私が行なった、街でできる練習方法を紹介しよう。マンションやデパートの階段を、10キロ程度の荷物を背負って登るのである。同じ高さの階段が続いているので、山歩きのペースを体で覚えるにはうってつけなのだ。

腕時計の秒針に合わせて足を運び、1階から屋上まで同じ速さで登る。速さをいろいろと変えて何度も登り、自分にあったペースを探すのである。コツは、できるだけ力を抜いてチンタラ登ることだ。「チンタラ、ホイ。チンタラ、ホイ。チンタラ峠をあんよでホイ」と、これが私のバテない山歩きのペースである。

私も若いころは、張り切って登って、よくバテた。何度か登っているうちに、ゆっくりと一定の速さで登る方が楽で、しかも早いことが分かった。まさに、ウサギとカメの寓話のとおりである。特に、登り始めは意識してゆっくりと登る。そうすると、しだいに体が慣れてきて楽になってくる。

次に、斜面の歩き方の練習方法について紹介しよう。山は斜面ばかりであるが、街には斜面があまりない。よって、斜面を歩き慣れていないので、山で滑って怪我をしやすいのである。ちなみに、階段は、足を置く面が平らであるから斜面ではない。階段は階段である。

川の土手を利用して練習する。川の土手は勾配がかなり急だし、怪我の心配もあまりないので、練習にはもってこいだ。登り方は自然体で、つまり、外股で足を少し横に広げ、膝と足首の力を抜いて、ももを引き上げそのまま下ろすのである。この形と力を抜くのがコツである。鉄棒にぶら下がったときの状況を思い出せば良い。

ももを引き上げたときには、膝と足首はぶらぶらしている状態である。そして、上半身を少し前に移動させると、足が振り子のように、自然に前に移動する。そのまま、ももの力を抜けば足が自然に下りる、という具合である。こうすると、余分な力がかからず疲れないうえ、足の裏全体が地面に密着してフラット(平ら)に着くので、フリクション(摩擦)が大きくなり滑りにくいのである。

ところで、私が中学生の頃、山歩きの技術が書かれている本を見ると、フラットとかフリクションという言葉がよく使われていた。辞書で調べてみても一般的な意味しか書かれていないので、山歩きの場合にどのようなことを言うのかわからなかった。

「斜面にフラットに足を置く」と書かれていても、斜面に平行なのか、それとも水平なのかわからない。どちらも、フラット(平ら)だからである。その後、「足の裏全体が斜面に密着するように足を置く」という意味だとわかった。坂道でフラットに足を置けば、摩擦が大きくなり、滑りにくくなるのである。

さて、濡れた斜面を登るときには、足の指で地面をつかむようにする。日常生活では、足の指を使うことがほとんどないので、指に力が入らず、滑ってしまうのである。足の指を開いてジャンケンのパーの形にして地面をつかむようにするのがコツである。濡れた斜面の下り方は、登りとは逆に、内股になって、膝を少し曲げ、足の指で地面をつかむようにする。このときの足の指の形はジャンケンのグーである。

雪の斜面では、足をフラットに置くと滑ってしまうので、足は常に水平に保ち、靴のエッジを利かして登り下りする。登るときは爪先で斜面に蹴り込んで、ステップ(踏み段)を作りながら登る。下りはかかとで踏み込み、ステップを作りながら下る。あるいは横向きになって、靴の山側のエッジを利かし、山側の足の指に力を入れて登り下りする。このときの指の形はジャンケンのチョキである。

凍った斜面では、アイゼンを着けなければ登り下りできない。緩斜面ならフラットに、急斜面なら水平にしてアイゼンの爪を利かして登り下りする。

以上、基本の歩き方の練習方法について紹介したが、実際の山では、道に木の根や石などがあるので、つまずいて転びやすい。また、ねん挫しやすい。木の根や石が雨や雪で濡れていたり、凍っていたりすると、滑りやすい。よって、足を下ろす場所と足の向きとを瞬時に判断し、体勢を整えてから足を下ろさなければならない。基本の歩き方をマスターしたうえで、実地練習をする必要がある。

バテずに、しかも安全に山歩きができるようになると、山歩きが楽しくなり、しだいに病み付きになって、山に金をつぎ込むようになる。次には、この点に注意しなければならない。

Ⓒ 開発コンサルティング

目次