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開発&コンサルティング

3-7 ブランド戦略(1)

ブランド(Brand)は日本語では商標と言いますが、ことばとしては英語のブランドの方が言いやすいのでブランドがよく使われます。ブランドの起源は、アメリカの広大な土地で牛の放牧を行う際に、自分の牧場の牛と他の人の牧場の牛とを区別するために、牛の体に焼き印をしたのが始まりです。つまり、ブランド=焼き印です。アメリカの西部劇を見ると牛に焼き印をする場面を見かけます。例えば、ジョン・ウエイン主演の映画『チザム』です。

さて、まず、日本語の商標の意味についてですが、これは商標法で定義されています。商標法における商漂とは、「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合、又はこれらと色彩との結合であって、業として商品を生産し、証明し若しくは譲渡する者がその商品について使用するもの、又は業として役務を提供し若しくは証明する者がその役務について使用するもの」を言います。

次に英語のブランドの定義ですが、アメリカマーケティング協会(AMA)の定義は、「ある売り手の財やサービスを、他の売り手のそれと異なるものと識別するための名前、用語、デザイン、シンボル及びその他の特徴」を言います。

ブランド(商標)は、特許庁に登録することによって登録者が独占して使用することができ、これを国が保護するわけです。しかし、登録しなくても、その目的である製品およびサービスを識別し差別化できればブランドになるわけです。

例えば、かつて松下電器は「ナショナル」というブランドを長い間使っていました。このナショナルというブランドは、特許庁には登録されていませんでしたし、欧米でも登録されていませんでした。

ナショナルは「国民の」とか「国の」という意味で、一般に広く使われる言葉であり、この言葉を独占して使用させるわけには行かないという理由で登録されなかったわけです。日本では長い間ブランドとして機能していたのですが、当然ながら欧米では全く機能しなかったのです。「国民の」製品などと言っても何のことかと思われてしまいます。

松下電器は2000年に赤字に転落し、その後、V字回復したのですが、松下電器という社名が企業ドメインとは合わなくなっているという理由で会社名を変更したのです。ナショナルというブランドを捨てて、会社名まで「パナソニック」に統一したわけです。

このように、ブランドというのは商品やサービスを識別するだけでなく、会社を識別するもの(コーポレートブランド)でもありますので、非常に重要です。会社だけでなく、事業ごとにブランドを設定したり、商品分野(カテゴリー)ごとに設定したり、個々の商品ごとに設定したりして識別・差別化するわけです。

以上のように、ブランド設定の目的は、会社、事業、商品カテゴリー、個々の商品・サービス等を識別し、他社と差別化するためです。また、神戸牛のように、特定の地域の産物に設定する地域ブランドもあります。

しかし、あえてブランドを設定しないという戦略もあります。これを「ノーブランド」と言ったり、「ジェネリックス」と言ったりします。ブランドを設定しないのは、ブランド設定とブランド使用にかかるコストを削減し、商品などを低価格で販売するためです。ノーブランドの商品には品質や包装などであまり差別化する必要のない日用品などがあります。

次に、ブランド設定のメリットについては、

  1. 模倣を防ぐことができる。
  2. 顧客のロイヤルティ(忠誠心、愛好心)を築くことができる。
  3. 企業や商品などのイメージを高めることができる。

などがあります。また、顧客にとっても企業や商品を見分けやすくなるので買い物を効率的に行えます。 したがって、通常はブランドを設定します。メーカーだけでなく、流通(卸、小売)業者も自社開発の商品などに独自にブランドを設定します。流通業者によるブランドはPB(プライベイト・ブランド)と呼ばれます。

ブランドを設定した場合、特許庁に登録しておくべきです。なぜなら、国から独占的に使用する権利が与えられ、それを法律で保護してくれるからです。最近では、外国にも登録しておく必要があります。例えば、中国では日本の有名な商品のブランドを中国に登録して、日本のブランド商品を中国で販売できないようにするだけでなく、偽物の日本のブランド商品を中国で独占販売するという事例が多くでています。これをやられると、対抗できません。

ところが、中小企業の多くは商漂登録しないで、社名も他社と同じものを平気で使っています。試しに自社の社名をインターネットで検索してみてください。社名が他社と同じというのが見つかるかもしれません。もし、他社が同じ社名で登録していた場合に、他社から社名の使用禁止を訴えられ、それまで社名を使用して稼いだ分を損害賠償として請求されてしまう可能性があります。「知らなかった」は通用しません。

また、自社で販売している商品・サービスのブランドについてもインターネットで検索してみてください。同じブランドで他社の商品・サービスが存在するかもしれません。社名と同様、他社が先に商標登録していた場合には、商漂の使用禁止だけでなく、それまで稼いだ分を全て損害賠償として請求されてしまいます。これでは、売上を増大させるどころか、倒産してしまう恐れがあります。ですから、早急に商標登録することを勧めます。早い者勝ちです。

さて、ブランドの備える機能は、会社や商品・サービスなどの信用保証です。つまり、会社や商品・サービスなどを識別・差別化するためには、会社や商品・サービスなどが信用できるものでなければならないのです。逆に、信用できないような会社や商品・サービスではブランド設定の意味がないのです。

したがって、信用を害するようなことをしたり、信用を害するような商品・サービスを販売したりすれば、ブランドを傷つけるだけでなく、ブランドがあるがために、かえって信用をなくしてしまうことになります。

以上がブランドに関する基本的な事項ですが、最後に、先発が良いか後発が良いかという点について説明しておきます。他社と類似の商品・サービスを企画した段階で、ブランド設定して特許庁に登録し、すぐに開発・販売する方が良い場合と、しばらく他社の動向を見てから開発・販売した方が良い場合とがあります。

先行して開発・販売する場合のメリットは、

  1. 顧客に早く認知されるため他社に対する参入障壁を作ることができる。
  2. 経験効果が得られる。つまり、累積生産量が増加するので単位あたりコストが安くなる。
  3. 売れれば儲かる。

デメリットは、計画通り売れなければ投資を回収できず、損害をこうむるということです。

後発の場合のメリットは、

  1. 売れるか売れないかを見極めることができるので、ムダな投資をしないで済む。
  2. 開発する際に模倣することができるので開発費用を削減できる。
  3. 販売する際に類似商品が既に顧客に認知されているので公告などの費用が削減できる。

デメリットは他社と差別化できなければ売れないということです。

などになります。したがって、先発の場合には他社に簡単に追随されないような商品にする必要があり、後発の場合には先発の商品との差別化を十分に行うことが必要になります。

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