企業であればメーカーはもちろん卸売業や小売業でも商品開発が重要だということはわかっていると思います。しかし、実際にはほとんどの中小企業では商品開発を行っていません。これでは中小企業は売上を上げられるわけがありませんし、儲かるわけもありません。ほとんどの中小企業は何の努力もしていないということです。
また、これではいつまで経っても我が国の景気は良くなりませんので、中小企業庁では研究開発を行う中小企業に対して、補助金や低利融資などいろいろな施策を講じています。
さて、商品開発について説明する前に、なぜ商品開発が必要なのかについて改めて書いておきます。不況期には価格競争が激しくなり価格を下げなければ商品は売れません。その理由は簡単です。経済学の教科書に書いてあるように、不況期には需要が低迷し、需要と供給の関係で供給過剰となるから価格を下げなければ売れないのです。
では、価格を下げないで売るにはどうすればよいかと言うと、それは供給を減らすことです。供給を減らせば価格を下げなくてもよいのです。しかし、供給を減らせば売上は落ちます。したがって、不況期にはどうあっても売上が落ちるのです。そこで、売上が落ちても利益が確保できればよいので、コスト削減を行います。しかし、コスト削減には限界があるのです。コスト削減の限界まで価格を下げれば利益はないのです。
以上のことはいわゆる日用品と呼ばれる既存商品についての話です。例えば、生活用品、家電、パソコン、デジカメなどの日用品です。これらは日用品ですから多少の改良を行っても売れません。なぜなら、日用品ですから日常使用しているわけで、あえて、買い換えるほどの不便を感じないからです。つまり、現在使用しているものにそれほど不自由を感じないからです。それに、他社の商品と比較してもそれほど差がないからです。
ところが、他社との差別化がきちんとできている商品や人が欲しがる新商品に関しては、不況期だろうが関係なく売れるのです。したがって、不況期には差別化を図ったり新商品を開発すればよいのです。いや、そうしなければならないのです。消費者が欲しがる新商品なら価格が多少高くても売れるのです。不況期でも消費者が欲しがる商品は売れるのです。消費者が欲しがる商品を開発して販売すれば消費者が喜ぶだけでなく、企業が儲かるのです。企業が儲かれば給料も上がるし、給料が上がればまた商品が売れるのです。この好循環を起こすことで景気が回復するのです。
よって、商品の差別化をきちんと図ったり新商品を開発する必要があるのですが、既存商品を少し改良した程度ではダメです。消費者がどうしても欲しいと思うような差別化を図ったり、画期的な商品を開発しなければならないのです。そのためには、消費者が欲しいと思うものは何かを探すことです。消費者が欲しいと思うものには顕在化された欲求と、顕在化されていないニーズとがあります。欲求とニーズとは異なります。欲求は顕在化されているものですから、現在、商品が存在していなくても、すでに競合他社が競って開発しているはずです。
例えば、大学ノート程度の軽さのA4サイズノートパソコンや3D(立体)デジカメなどです。これらは欲求であり、既に顕在化されていますから、たとえ他社に先駆けて開発できたとしてもすぐに追いつかれてしまい、結局あまり儲からないことになります。よって、ニーズを発見することです。マーケティングの大御所、P.コトラーの定義によれば、「ニーズとは何かに対する欠乏状態」です。
何が欠乏しているのかは消費者自身にも分からないのです。よって、ニーズをつかむことは容易ではありません。しかし、大まかにであれば分かるものもあります。1つ目は、環境問題に対する対応です。産業革命以来、人類が行ってきた地球の環境破壊に対する対応です。顕在化されているものでは電気自動車や太陽光発電などがあります。2つ目は少子高齢化社会の進展に対する対応です。そして3つ目は健康や癒しを求める人たちへの対応、4つ目は生活便利グッヅなどです。
また、人間の根源的かつ永続的な欲求を考えれば、マズローの欲求5段階説に対する対応です。つまり、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求(所属と愛の欲求)、尊敬と自尊心の欲求(自我の欲求)、自己実現への欲求、などに対する対応です。よって、少なくともこれらに合致している商品であれば売れる可能性があるのです。
次に、自社の生存領域や標的市場におけるニーズへの対応です。自社の生存領域や標的市場の設定に際して、どのようなニーズがあるのかについては既に大まかには調査しているはずです。しかし、商品開発に当たって改めてニーズを調査する場合には、まず、既存商品が売れない原因を調査するのです。これは企業がまず最初に取り組まなければならないことですが、せっかくニーズを調査しても商品を多少改良した程度で済ましている企業が多いのです。
そこで、本来の商品開発の事例を紹介します。例えば、富士フイルムの使い捨てカメラ「写るんです」の開発事例です。カメラが売れなくなった原因を調査したところ、若いころに一眼レフカメラを使って写真を趣味にしていた人たちが、年をとって老眼が進みピント合わせができなくなったり、重いカメラを持つことが億劫になったりしたことが原因の1つでした。そのうえ、新規に一眼レフカメラを購入する人も少なくなりました。つまり、少子高齢化と人口減少が原因だったのです。
そこで、富士フイルムでは若いころ写真が趣味だった人たちにもう一度写真を趣味にして欲しいと考えたわけです。そこで、ピント合わせしなくてもきれいに写り、しかも軽くてポケットに入るようなカメラを開発したわけです。すでに、ピント合わせをしなくてもきれいに写るカメラはあったのですが、重いので、多少軽くする程度ではダメだということで思いっきり軽くし、しかも自宅から持っていく必要はなく、観光地などで購入できるように格安にしたわけです。そしたら年寄りだけでなく、若者にも売れてしまったというわけです。
また、ニーズを発見する方法として、既存商品に対する新用途を調査するのです。ニーズとは新用途でもあるからです。たとえば、ソニーの「ウォークマン」の開発事例です。若者がカセットテープレコーダーを肩に担いで歩きながら音楽を聞いていたり、芝生の上でランチを食べながら音楽を聴いていたりするのを見て、録音ができなくても再生だけできるようにし、持ち歩ける小型のカセットテーププレーヤーを開発したわけです。これらの例を見ても現市場(既存市場)の隣の市場は標的市場としての可能性が高い空白市場であることがお分かりかと思います。
ところで、このような画期的な新商品についてみてみると、ほとんどが当初は社内で大反対されています。富士フイルムの使い捨てカメラ「写るんです」も当初は大反対されました。と言うよりも馬鹿にされたそうです。こんなものカメラではないと言われたそうです。筆者が富士フイルムのコンサルティングを行った時に、直接、開発担当者から聞きました。
また、ソニーの「ウォークマン」も当初は大反対されたそうです。販売店からもこんなもの売れるわけがないと言われたそうです。その理由は録音機能がなく再生機能だけだったからです。当時は録音できないものが売れるとは思えなかったのです。なにしろ、「カセットテープレコーダー」なのにレコード(録音)出来ないのですから。
このように、画期的な新商品というものは反対されたり、馬鹿にされたりするものなのです。その理由は、賛成か反対かを判断するための情報が何もないのですから、失敗や責任追及を恐れて反対するのです。よって、反対されたり、馬鹿にされたりしたらむしろ成功する可能性は高く、皆が賛成したら失敗すると思ったほうがよいのです。なぜなら、皆が賛成したら、賛成するための情報がすでにあり、そうなれば他社がすでに開発を進めているからです。
さて、「これから商品開発を行います。よって、市場をセグメントして評価し、開発する商品の標的市場を決めてください。」と言われた場合、できますか? そんなことできるわけがありません。なぜなら、これから開発する商品ですから、どのような商品だか全くわからないからです。
ところが、マーケティングの教科書には、商品開発を行うために市場(顧客)をセグメントして評価し、標的市場を決めるように書いてあるのです。つまり、実際にはできないことが書いてあるわけです。商品が存在しなければ市場(顧客)も存在しないので、市場(顧客)セグメントもできませんし、市場の評価もできません。したがって、標的市場も決められないのです。
実は、マーケティングの教科書に書いてあるのは、既存商品について市場セグメントを行い、市場を評価し、標的市場を決めるように書いてあるのです。したがって、標的市場の既存商品について商品差別化を図ろうとしても、せいぜい改良程度のことしかできません。当然でしょう。既存商品を基に市場(顧客)をセグメントし、その中から標的市場を決めたのですから。
それに対して、筆者の方法は既に説明してありますように、既存商品が存在しない空白市場を探索して空白市場の中から標的市場を決めるのです。そして、空白市場に対して商品開発を行うのです。したがって、単なる既存商品の改良ではなく、本来の商品開発を行い差別化を図ることができるのです。
また、マーケティングの教科書では標的市場が決まってから標的市場に対して顧客ニーズの探索などを行うのですが、筆者の方法は顧客ニーズを探索してから標的市場を決めるわけです。したがって、標的市場が決まれば次は商品開発ができるわけです。とは言うものの、顧客ニーズを探索するのは容易ではありません。よって、現市場を基準にして市場セグメントを行い、そのうえで空白市場の探索を行って、標的市場を決めるわけです。この方法で標的市場を決めるのは現市場と関係があるので顧客ニーズの探索がしやすいことと、現市場との相乗効果が得られるからです。
顧客ニーズの探索をして商品開発の課題が発見できたなら、それを開発テーマとします。あるいは、具体的な商品アイデアがあれば新商品アイデアとします。そして、重要なのは商品コンセプトを設定することです。商品コンセプトはあくまで顧客の立場に立った表現でなくてはなりません。例えば、ソニーの「ウォークマン」はコンセプトをそのまま商品名にしています。つまり、「ウォークマン」のコンセプトは歩きながら音楽を聞くプレーヤーです。
また、使い捨てカメラ「写るんです」のコンセプトもそのまま商品名にしています。見た目にはおもちゃのようでありながら、これでも写るんですということを訴求している訳です。これを、「ピント合わせ不要で小型軽量なカメラ」などとその機能を中心にコンセプトを設定しても売れません。コンセプトと顧客要求機能とは異なるのです。コンセプトは顧客の立場で表現する商品概念であり、顧客欲求機能は企業の立場で表現する商品概念なのです。
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