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開発&コンサルティング

1-8 地域とともに生きる商店街

地域とともに生きる商店街について、消費者ニーズに応えていくための方法について中小企業白書を基に書いてみようと思います。

1.新たな担い手の確保

わが国の小売販売額は年々減少し、中小小売業等を取り巻く状況は厳しいものの、従来の店舗での商品・サービスの提供にとどまらない、多様な役割が期待されている。現在、既存商店街で後継者がいないことを理由に廃業している小売事業者も多い中で、今後、中小小売業等が期待に応えて新たな事業やサービスを展開していくためには、既存事業者のみならず、新たな担い手の参入が重要です。

そこで、消費者実態調査において、消費者の中小店の経営や就業に対する意向を尋ねたところ、将来的な展望までを含めて、回答者からは、経営、就業のいずれにおいても25%もの意向が存在しました。つまり、消費者の4分の1の人が中小店を経営したり、あるいは中小店で働きたいと思っていることがわかったのです。学生など若年層ほど中小店を経営したい、中小店で働きたいという希望が多く、また、専業で中小店を経営したい、正社員として就業したいといった積極的な回答も多いことがわかったのです。

また、中小店での経営・就業に関心を持つ理由としては「趣味を活かしたい」が最も多い。一方、「人と触れ合える仕事がしたい」、「高齢になっても働くことができそう」、「自営業をやってみたい」等の「働き方」に関するものが上位に挙げられています。また、こうした開業や就業意向を持つ者に対する支援策として、「資金面での支援」35.7%をはじめ、「起業へのアドバイス、相談」33.2%、「経営のアドバイス」24.4%、「店舗の確保のための支援」22.3%、「必要な資格や手続きについての初歩的な勉強への助言、支援」20.1%など、開業や経営後の支援から初歩的な勉強の支援に至るまで幅広い要望が挙げられています。

今後の民間との協働、高齢社会という新しい社会システムにおける地域づくりの担い手の確保に向けては、それぞれの価値観に応じた多様な働き方を実現する姿の1つとして中小店を位置づけ、育成していくことも必要となります。

2.地域とともに生きる商店街

小売業等のサービスはニーズが存在する地域で供給される必要があるため、その地域・地区の立地環境、人口や都市機能の集積、今後の目指す姿に応じて、その供給体制を構築していくことが求められます。加えて、商品・サービスへのニーズは、そこに暮らす人々の生活と共に変化し続けるものであり、住む人々が高齢化すれば、高齢者向けの商品・サービスが求められます。さらに高齢者が必要とする商品・サービスも、ライフスタイルの変化等に応じて変化していきます。

また、高齢化のような漸進的な変化とは別に、各種の都市機能の導入や撤退は、その地域のサービスニーズを大きく変化させることになります。特に、現在は人口減少社会を迎えた一大転換期にあり、まちづくり3法の改正も受けて全国でコンパクトなまちづくりに向けた取組がなされています。都市内あるいはより広い圏域内でどのように人口や都市機能を配置していくかにより、それぞれの地域における商品・サービスニーズも大きく変化します。

一方、こうした各地域・地区の需要の変化に応じた商品・サービスの供給体制を構築するにはある程度の期間を必要とします。都市計画等において長期的な地域づくりの方向を共有した上で、地域の関係者が参画してサービス供給体制の構築に取り組むことが求められます。また、地域の担い手の集積により中小小売事業者等の担う役割も変わります。民間の担い手が乏しい小規模都市では中小小売事業者等に対する期待は大きく、地域づくりの主導的役割を担うことが求められます。他方、大都市の中心市街地では、公共施設や大型店も含めた多様な都市機能集積が求められ、中小小売事業者等はその一員として魅力の充実や多様化に寄与していくことが役割となると考えられます。

中小小売業等は、地域の状況に合わせて商品やサービスを提供することが必要です。変わりゆく需要に対応する商業サービスの充実の方向と、その実現に向けた方策について、具体的な取組内容を含めて紹介します。

<広域拠点型>

広域拠点型は、県庁所在地等の大都市の中心市街地内にあり、多様な都市機能集積を背景として、広域商圏を対象にフルセット型の商業・サービス集積を目指すものです。大型店が集客の核を担い、高度な消費ニーズにも対応していく一方、地域中小小売事業者は、「地域ならでは」「その店ならでは」の商品・サービスをもつことが、集積としての魅力の強化につながります。

加えて、広域の集客を対象とする商品・サービスのみならず、近隣住民の生活支援等の消費ニーズに対する担い手となることも考えられます。商業地域としての魅力、ポテンシャルの維持のためには、地域内の大型店や公共施設等とも連携したにぎわい創出や環境整備が重要であり、中小小売事業者にとっても地域個性の発揮等に関連する分野について積極的に展開し、都市としての魅力、豊かさの創造に貢献することが期待されます。また、地域全体の雰囲気を損ね、ポテンシャルを低下させてしまうような事業者等が進出してこないよう、地権者等と連携することも必要となります。

事例1 地権者を巻き込み商店街の新陳代謝を促進
事例2 新たな商業施設と公共施設の導入が、来街者や更なる民間投資を呼ぶ
事例3 ホームページを活用して顧客・売上を拡大
事例4 商業者主導の再開発により中心市街地の活性化に取り組む
事例5 活気ある新興集積型商店街が中心市街地商店街の隣に生まれる

<生活密着型>

郊外等に位置し、徒歩圏域内の住民が近所で満たしたい消費・生活ニーズに幅広く応えていくことを目指すものです。消費者の求めるものは年齢層により様々です。例えば、高齢者が多ければ配食サービス、30~40歳代では託児サービスのニーズが多いと考えられます。一方で、地方自治体からは公共的サービスを担う主体として期待されています。こうした期待に応えるためには、商店街だけでなく、関連事業者・NPOや住民などサービスの需要者を供給者として巻き込みながら、地域ぐるみの取組が重要となります。

事例6 コンパクトシティ化に合わせ福祉対応を前面に掲げる
事例7 公共路線バスを乗合タクシーの効率的な配車システムで代替し、商店街への来客を増加

<テーマ型>

テーマ型は、従来は観光地でなかった小規模都市の中心市街地等が、特定のテーマ・機能に特化して高度な消費ニーズを満たし、広域集客を目指すものです。他方、テーマ以外の分野については近隣の多機能型集積に依存する面もあります。テーマ型としての事業展開に向けては、従来からの転換が大きいほど、戦略的に、かつ地域内外の資源を活用して取り組んでいくことが求められます。そのためには、官民の協働が不可欠です。テーマ型として、新たな小売業・サービスを集積していくには、テーマに沿った事業者の誘致、育成が必要であり、また、地域全体の雰囲気を損ねるような事業者の進出を避けることも求められます。官民が連携し、地権者等も巻き込み、関係機関との連携を密にすることが必要です。

事例8 行政によるビジョンの提示と民間による事業実施
事例9 商店街等によるテナントマネジメント
事例10 妖怪が主役の商店街で子供やマニアを広域から集客

以上のように、今後、地域の中小小売事業者等への期待が高まる中で、その役割を果たしていくためには、個々の企業による取組に加えて地域づくりの一環としての取組が重要になります。そのためには、各地域・地区が目指す方向のイメージを共有化した上で、当該地域・地区が必要とする商品・サービス、公共的サービス等について、既存の中小小売事業者等に加え、関連事業者、住民、地縁的組織等と行政が連携分担して持続的に取り組むことが求められます。人口減少・高齢化に直面する中でも、地域・地区の将来像を共有化することで、事業者や不動産所有者、あるいは就業者にとっても、将来の見通しが立ち、前向きな事業投資や起業・再チャレンジを促すことも可能となります。将来像と官民協働ルールの構築により、健全な競争と協調が生まれ、地域において行政、市民、事業者がそれぞれのニーズとリソースを持ち合うことで、豊かな生活の実現が期待されます。

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