今回は商店街の取組みについて、中小企業庁の調査に基づき説明します。多くの部分は中小企業白書からの引用ですが、分かりにくい部分や表現が難しい部分に関して筆者が大幅に加筆修正を行っております。
さて、全国の中小小売店の販売額が低下する中で、中小企業庁は活発な取組みを行っている商店街(7都市、14商店街)を取り上げ、当該商店街に立地する事業者を対象にアンケート調査を行いました。
活発な取組みを行う商店街と一口に言っても、大都市の中心市街地に立地し地域全域から集客する商店街から、歩いて来ることのできる住民を対象とした小規模な商店街まで、その構成は極めて多様です。調査対象商店街の単純な平均値を示しただけでは、取組みの全体像を把握することはできません。そこで、まず、これらの商店街の顧客層や、経営者に係る情報に基づき、調査対象の商業集積を4つのタイプに分け、タイプごとの属性、取り組み状況や問題点・課題点を比較しています。
主な顧客の居住地は、テーマ型は市外、広域拠点型は市内、生活密着型は徒歩圏域からです。 業種構成割合は、顧客ターゲットにより異なっています。 主な顧客の年齢階層は、新興型では若者層が多く、テーマ型、生活密着型では高齢層が多い。 主な顧客の来店時間帯は、広域・新興・テーマ型では圧倒的に休日の昼間が多く、生活密着型では平日の午前中が多い。 現在地への出店時期は、新興型においては出店時期が新しい。 出店企業の規模は、広域型では51人以上が約3割、その他の型は5人以下が6割超です。
それぞれの商業集積のタイプ別に、商圏、業種構成、顧客の年齢層、来店時間、出店企業規模が異なっています。調査結果に基づくと、以下のように整理できます。
大都市であることから、市内や隣接市町村のみならず、一定規模以上のかなり広範囲な商圏を持ちうる地域です。織物・衣服小売業が業種構成において大きな割合を占めています。サービス業においても、クリーニングのような日常利用するものではなく、ブライダル関連施設や旅行業などの店舗が多く立地しています。最もシェアの大きな顧客年齢階層は50歳代ですが、40歳代、30歳代にも多く利用されています。顧客が最も多く来店するのは、休日、平日の昼間です。企業規模は、4つの類型中では規模が大きい企業が最も多く、複数店舗の一支店としての出店も半数を占めています。
広域拠点に隣り合わせで形成されており、商圏、顧客の来店時間帯は、広域拠点のものに近いです。最近出店した店舗の比率が広域拠点型など他のタイプより高いです。サービス業の比率が高いが、理・美容業、エステサロンが多いです。主な顧客の年齢階層は、大学生・20歳代と4つの類型の中で最も若いです。出店店舗の企業規模は隣接する広域型に比べると小さく、また、本店、重要店舗としての位置づけの店舗の割合が最も高いです。
商圏は4つの類型中で最も広範囲にわたっていると考えられます。観光資源をテーマにしている場合もあるために、土産物を販売する飲食料品小売業や、飲食店の比率が高いです。顧客の年齢層は、50歳代、60歳代が最も多く、かつ、休日の昼間が来店のピークとなっており、高齢者の旅行需要を取り込んでいます。一支店としての出店の割合が6割超と最も高いです。但し、企業規模は5人以下が2/3を占め、大きい企業が多い訳ではないです。
徒歩圏域からの顧客の割合が高いことが特徴となっていますが、市内からの顧客も少なからずおり、結果的に一定規模の商圏を確保している状況になっています。サービス業の比率が高いですが、クリーニング、理・美容業などの生活関連サービスが多いです。顧客の年齢層は50歳代が最も多く60歳代がこれに次ぎます。平日の午前中が来店のピークになっている点で、他のタイプとは異なります。出店後10年以上を経ている店舗の比率が8割を超え、新しく出店した店舗の比率が他に比べて最も少ないです。出店店舗の企業規模は5人以下が7割に近く、最も小さいです。一方で、一支店としての出店も半数近くあります。
商店街における環境整備やにぎわいづくりのためには近隣事業者等の共同事業への参加が考えられます。テーマ型をはじめとして、広域型、生活密着型においては、商店街組合への加入率が高く、地域催事等への参加も活発です。これに対して、新興型は、新規参入者が多いこと、組合自体が組織されていないこと、表通りに比べて商業基盤が未整備であること等から、共同事業などへの参加は低調です。
組合加入や共同事業等への参加率は、新興型では参加率が低いですが、他の型では高いです。また、消費者の商店街への期待は、商品の宅配などの付加的サービスも含めたものへと多様化しています。4つの商業集積タイプを通じて実際に多いのが、商品の宅配・出前、購入者向けのアフターサービスです。テーマ型においては、街歩きマップの提供、定期的な観光情報の発信など観光客を対象としたサービスを提供している比率が高いです。
その一方で、高齢者、近隣在住者、安全・安心に係るサービスについては、現時点では実績が非常に少ないです。しかしながら、今後については、近隣在住者向けのサービス、高齢者向けのサービス、安全・安心に係るサービスなどについて前向きに検討する店舗が多いです。生活密着型において、近隣在住者向けや高齢者向けのサービスや品揃えを積極的に展開するとしている割合が高いです。
近所にある中小小売業者に対して、高齢者による需要が存在していることから今後の期待も高いです。公共的サービスを提供する主体として中小小売事業者等が期待されています。生活密着型の商店街の今後の取り組み姿勢は、こうした高齢者や自治体からの期待を踏まえたものと理解することができます。
このように、今後は顧客向けを想定したサービス・品揃え・事業展開を考えていますが、その一方で、今後の事業展開に向けて、いずれの類型でも人材と資金が最大の課題となっており、収益の見込みが立たないといった問題があります。
以上のように、商店街が顧客や地域ニーズに応える商品・サービス等の供給拠点となっていくためには、その担い手となる事業者の存在が不可欠です。そこで、事業者の参入状況について見てみます。
まず、1997年以降に出店した事業者の出店理由をタイプ毎に見てみますと、広域型やテーマ型においては、「人通りが多いから」、「周辺店舗や施設との相乗効果が期待できるから」という答えが多いです。また、顧客が立ち寄る施設は、広域型は周辺の大型店に、その他の型は、商店街内の最寄品店舗や買回り品店舗等に立ち寄っていると認識されています。
一方で、新たな店舗の参入の程度が最も高い新興集積型においては、「物件の条件が良いから」という事業者が多いです。商業集積として成熟している広域型などと比較し、比較的立地条件が良い割には、賃料が安く、小規模な事業スペースを確保しやすいといった利点があるためと考えられます。
また、事業者が参入するに当たっての土地・建物所有状況を見ると、大きな変化が見られます。従来は、広域型、新興型、生活密着型を問わず、土地や建物等を所有する者が多かったのですが、最近の出店に際しては、土地・建物は所有せず、テナントとして賃借する場合が多いです。テナント化することにより、新規出店がしやすくなっている面があると考えられます。 また、出店時に相談・交渉した相手先をみると、不動産会社や所有者が主な相手先です。
テーマ型においては、不動産会社に相談する事業者は皆無で、相談先としてTMO・まちづくり会社、市役所、商工会議所が挙げられています。テーマ型では、行政、まちづくり組織、商業者等が一体となり、まちづくりの方向にそった事業者の参入に努力をしている状況がうかがえます。
なお、新たな事業者の参入が活発に行われることで、商店街にとっても新たな顧客を獲得できる可能性があります。新たな参入が多い新興集積型においては、30歳代以下の経営者の比率が1/4以上に達しています。テーマ型や生活密着型において、60歳代以上の経営者の比率が4割を超えているのと対照的です。また、経営者の年代と主な顧客の年代の関係を見ると、高齢経営者の比率が小さいほど(経営者が若いほど)、若い顧客の比率が高くなることが分かります。
つまり、経営者の年齢は新興型は若いが、生活密着・テーマ型は高いです。また、経営者の年代と顧客層の年代とは正の相関があるということです。
新たな事業者の参入は、商店街としての新たな成長・発展のきっかけともなり得ます。出店時期別に見た売上高の動向を見ると、出店後間もない時期においては、売上高は順調に伸びる傾向があります。安定・成熟した企業に加えて、若く成長力の高い企業を持つことは、商店街の持続的な発展に向けて有効と言えます。
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