卸売業には基本的な集荷・分散機能の他にいろいろな機能があります。それは、物流機能、情報機能、金融機能、リテールサポート機能などです。これらのうち、近年では情報機能およびリテールサポート機能を強化する傾向にあります。それは、競争の激化に対応するためです。そこで、情報機能およびリテールサポート機能について説明したいと思います。
まず、情報機能についてですが、商品の流通構造において、情報機能とはメーカーの商品情報を小売業に提供すると共に、小売業が保有している消費者情報をメーカーに供給する機能のことです。
情報機能が重視されるのは競争の激化によって商品情報がいっそう重要になってきたからです。メーカーと小売業との中間に位置している卸売業にとって、基本的に重要なのが商品戦略です。それは、いかに小売業の要求に応じた品揃えをするかです。近年では小売業は大規模化すると共に新たな業態の小売業が躍進しています。
そこで、卸売業としてはこれらの小売業の変化に対応する品揃えをしなくてはなりません。ところが、中小卸売業はこれに対応することができません。そこで、異業種の卸売業との連携を図ることによって、大規模卸売業に対抗するわけです。
異業種の中小卸売業が連携する目的は多種類の商品を仕入れることによる品揃えの強化だけではありません。商品開発の強化、物流の強化、販売促進支援の強化などがあります。要するに、水平連携することで実質的に規模を大きくし、小売のニーズや欲求に応えると共に大規模卸に対抗しようということです。
また、これとは別に、連携しないで大規模卸に対抗する方法もあります。それは、商品の幅を広げる品揃えではなく、奥行きの深い専門性を重視した品揃えをするのです。これにより差別化を図ろうということです。その理由は、たとえ異業種卸と連携して幅を広げる品揃えができたとしても販売量が少なければコスト的に大規模卸に対抗できないからです。
次に、リテールサポート機能についてですが、リテールサポート機能とは文字通り、リテール(小売)をサポート(支援)する機能です。
中小卸売業の顧客である中小小売業は経営資源が不足しているので、これをサポートして小売業の売上を上げ、その結果として卸売業の売上も上げようというのがリテールサポートです。サポートの内容には、公告、販売促進、取扱商品の選択、棚割り・陳列、従業員教育、消費者調査などがあります。これらについて企画だけの場合もあれば実施までサポートする場合もあります。
リテールサポートを行うのにどうしても必要なのが情報機能です。公告、販売促進、あるいは商品選択に当たっては、小売業の売れ筋・死に筋商品の情報とメーカーの生産・開発情報が欠かせません。このために卸売業は情報システムを備えなければなりません。受注データベース、得意先別データベースなどを構築し、これらのデータベースを分析し活用する能力が必要となります。
リテールサポートを行うのに必要な情報システムを分析・活用するための能力はどのようにして獲得あるいは育成すればよいでしょうか。その最も手っ取り早い方法は卸売業が自ら小売業を経営することです。つまり、小売業に進出し直営の小売店を経営することです。
これはリテールサポートのためだけでなく、卸売業が川下である小売業に進出する業態化戦略でもあります。この戦略によって、より消費者に近くなるため、消費者情報が得やすくなり、卸売業としての品揃えやPB商品の開発などにも有利に働くのです。これは規模の大きな卸売業ほど直営店を経営していることからもわかります。
中小卸が直営店を経営し、小売経営のノウハウを取得すると、単なるリテールサポートという形ではなく、卸が主宰し、本部となって多数の小売業を募ってボランタリーチェーンを構築し、小売業との連携を図ることができます。
ボランタリーチェーンはフランチャイズチェーンと異なり、あくまで参加者の自主性、独立性を維持していますから、縛りもなく、いつでも容易に退会できるものです。実際にボランタリーチェーンを主宰している卸売業は、安定的に販路が確保できるし、リテールサポートの効果が高くなるので売上が増加しているのです。しかし、実態は卸が主宰しているボランタリーチェーンは少なく、これからの課題です。
なぜ、卸主宰のボランタリーチェーンが進展しないのかと言いますと、従来からある我が国の古い習慣が原因です。つまり、メーカーによる建値制、特約店制、リベート制などが未だに存在しており、卸売業がメーカーとの強固な関係を構築することを求められているからです。
別の言い方をすれば、メーカーは卸売業が小売業と連携するのを嫌がるのです。したがって、卸売業はメーカーと連携するか、小売業と連携するかの選択に迫られるわけです。
一方で、メーカーはサプライチェーン全体のキャプテンにはなれない時代になっています。その理由は消費者のニーズや欲求をいち早く掴むことができるのはメーカーではなく小売業だからです。
そのため、メーカーは今後どのようにしていけばよいのかというと、卸と同様、直営小売店を増やしていくということです。つまり、メーカーもできるだけ川上から川下へ進出する戦略を採っているわけです。
以上のことを考えれば、中小卸売業が今後実施しなければならないことは、メーカーと小売業との中間に位置していることをむしろ強みとして、卸主宰のボランタリーチェーンを構築し、リテールサポート機能を強化すると共に、小売業とメーカーとの両方の情報を収集分析し活用するために情報機能を強化することだということが分かります。
つまり、消費者の欲求やニーズとメーカーの生産や商品開発情報を収集分析し、これを活用すればよいということになるわけです。また、これらによって、卸の機能の1つである物流機能もより強化できることになります。
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