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開発&コンサルティング

第62回 今年の中小企業白書は役に立つ

前回、中小企業白書について少しふれたが、今年の中小企業白書は昨年の中小企業白書とは打って変わって役に立つ内容になっている。そこで、改めてその要約を書くことにした。わかりやすくするために、白書の独特の言い回しやお役所言葉を取り除いて箇条書きで書くことにする。

  1. この40年間、大企業と比較して中小企業のシェアが高い分野は、ニッチ分野であり、労働集約的な性格が強く、需要が多種多様にわたり、消費者の嗜好の変化等によって絶えず変化する分野である。
  2. 中小企業の成長のメカニズムは、成長過程で「身の丈にあった」規模の市場へと活動分野を絶えず転換していくことである。この成長の源泉は、新製品開発等、イノベーション活動である。
  3. 同族性の度合いが高い企業ほど成長しない。外部役員の活用が売上の増加をもたらす。
  4. 経営の悩み事の相談ができる「右腕」と呼べる人材が存在する企業は、従業員増加率および売上成長率が高い。大企業を目指すなら「右腕」の活用が必要条件である。
  5. 意思決定について、「意見調整を行わない」企業より、「双方が納得いくまで意見調整を行う」企業の方が売上成長率が高い。
  6. 経営理念について、顧客、社員、株主など利害関係者のためとしている企業より、革新・進歩を目指す、地球環境を考える、日本経済の発展に貢献するなど社会貢献を重視した経営理念を掲げている企業の方が従業員の増加率が高い。
  7. トップシェア製品を生み出すために必要な技術は、必ずしも高いまたは独創的な技術である必要はない。標準的な技術で他社にまねのできない商品にする。それには、自社の商品の魅力をいかに市場で生かせるかという努力が重要である。そのためには、絶えず市場に目を向け、市場への適応力を高める必要がある。
  8. 開業率が高い業種は、「電気通信に付帯するサービス業」「ソフトウエア業」「老人福祉事業」「中古品小売業」などである。
  9. わが国の開業率が低い主な原因は、事業主の給料より従業員の給料の方が高いためである。平均すると、事業主の給料は従業員の給料の約半分である。
  10. 創業希望者は、若い人ほど高いが実際に操業するのは中高年である。この理由は資金不足である。このため、昨年1月に国民生活金融公庫に「新創業融資制度」が創設された。創業者に対して無担保、無保証(本人保障もなし)で融資する制度である。
  11. 銀行から金を借りやすくする方法として、銀行相互間の競争を利用すると良い。メインバンクより上位の銀行と取引するようにする。メインバンクより上位の銀行と取引している場合、上位の銀行にメインバンクとしての地位を奪われるという恐れから、借り入れしやすくなり、金利も安くなる。上位の銀行からはなかなか貸してもらえないが、取引しているだけでメインバンクの競争相手になるのでメインバンクから借り安くなる。
  12. 融資してもらいたいと思っている企業の場合、取引銀行が多い企業ほど借り入れ金利が高くなる。その理由は、メインバンクから十分に借り入れができない場合、他の銀行から借り入れようとするが、それは、メインバンクの企業に対する信用力が低いと考えられるためである。このことを他の銀行に見透かされるため、取引銀行が多いほど金利が高くなってしまうのである。よって、融資を望む企業は取引銀行を絞った方が良い。しかし、銀行が積極的に融資をしたいと考える企業の場合は逆になり、取引銀行が多い企業ほど競争原理が働いて金利が低くなる。したがって、銀行から融資をしたいと言ってきたら、取引銀行を増やせば金利が低くなる。
  13. 財務情報などを自主的に提出している企業は、借りやすいし、借り入れ金利も安い。銀行は人員不足から調査に時間をかけられないため、企業側から積極的に情報開示すれば銀行は助かるためである。1年に1回より、6ヶ月に1回、さらに月に1回、さらにほぼ毎日、より多く情報公開している企業の方が借りやすい。
  14. 比較的規模の小さい企業は、規模の経済(規模を大きくするほどコストが安くなる)を得られないため、他の企業との共同仕入れ、共同販売、共同受注、共同広告、共同情報化などを行うと良い。比較的規模の大きい企業は共同研究開発を行い、不足する知識やノウハウを補完するようにすると良い。つまり、規模の小さい企業は他の企業と連携してコストダウンを図り、規模の大きい企業は他の企業と連携して新製品開発を行い売上拡大すると良い。
  15. 産業集積のメリットは、従来、地理的に企業が集中していることにより、輸送費、原材料購入費の節約、人的資源の調達の容易さなどのハード面であったが、今日では、情報交換の円滑化、不確実性の低下、技術革新の普及などのソフト面となっている。2002年時点では、「顔の見える交流により、市場情報、技術情報等が入手しやすい」ことをあげている企業が最も多い。つまり、産業集積は、企業間の情報交流を促進する機能を担っており、その役割が重要度を増している。

白書はまとめとして、「再生と企業家社会への道」と題して、次のように書いている。この40年間の中小企業の営みは、結果として日本経済の基盤を支える役割を果たして来た。企業家1人1人の技術的工夫やちょっとした知恵の積み重ねが日本にとって重要なのである。

元来、ダイナミズムに富む中小企業はわずかの間に急変身を遂げる力を持っているが、それは本業における地道な経営努力によって成し遂げられるのである。こうした中小企業が多数、活躍する経済「企業化社会」が日本経済再生につながるのである、と。

さらに、次のようにも書いている。「企業化社会」は多くの者に自己実現の喜びを与える。なぜなら、従業員の価値観が画一的になりがちな大企業に比較して、中小企業は多様な価値観を認める企業形態だからである。よって、活力と意欲にあふれた中小企業が活躍する「企業化社会」が仕事を通じた自己実現への近道なのである。

一方で、「町の企業家」には多くの重い決断を迫られる場合がある。従業員やその家族の顔を思い出しながら会社の存亡に係わる決断をしなければならない。10人の従業員を抱える中小企業の経営者の決断は、100人の部下を持つ大企業の重役より重い。そのうえ、中小企業経営者は60歳代になってもCAD、CAM等の新技術と奮闘しなければならない。このように重い決断に耐え、新技術を常に吸収しなければならない中小企業経営者こそが日本の経済再生の真の担い手なのである、と。

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