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開発&コンサル手イング

第58回 山道はゆっくり歩くものだ

最近、低い山を歩いていると、山道を走っている人にたまに出会う。胸と背中にゼッケンを付けているのを見ると、どうやら競技として走っているようだ。このような人たちはほとんどが若者で、子供づれの家族や年寄りがハイキングを楽しんでいることには無頓着である。どけどけと言わんばかりに走り抜けていく。

後ろの方からピッピ~、ピッピ~と笛の音が聞こえてきた。何事かと思ったら、若者が笛を吹きながら走ってくる。要するに「どいてくれ~」という意味の笛だ。まるで、もたもた走っている車にクラクションを鳴らしてしているようである。しかし、ここは車道ではない。山道である。また、山道は走る道ではない。

山道はゆっくり歩くものだ。小鳥のさえずりを聴きながら、花をめでながら、ときには立ち止まって景色を眺めながらゆっくりと歩くものだ。

私はしばらく休憩して、彼らが通り過ぎるのを待つことにした。彼らの身支度はというと、マラソンランナーと同じである。ランナーシューズを履き、服装も軽装だ。また、小さなバックを背負っているだけである。おそらく、ペットボトル、タオル、着替え、行動食などが入っているのだろう。

雨具は持っていないようである。おそらく救急道具も持っていないだろう。山道で走ればころびやすい。怪我をして歩け(走れ)なくなることもある。つまづいて谷に落ちることもあろう。

小学生の男の子と母親が2人で歩いていた。2人の後ろからランナーが走ってきたので、母親は山側によけた。男の子は谷側によけた。そこへランナーが走りながら通り過ぎようとした。その時、ランナーの手が男の子の体に当たった。

男の子は「あっ」と言って一歩後ろに下がった。その途端、谷に落ちた。「あ~」と言いながら落ちた。ランナーは気づかなかったのか、それとも気づいたのか分からないが、そのまま走り去って行った。

近くでこの様子を見ていた私は、すぐに谷をのぞいた。母親も驚いて谷をのぞいた。落ちた男の子は幸いにも数メートル下で止まり、すぐに立ち上がった。柔らかい土だったので、大きな怪我もしなかったようだ。

谷から上がってきて、「おっこっちまったよ」と言って苦笑いした。少しすりむいただけだった。母親は、「どうしてそちら側によけたの、こちら側によければよかったのに」と言った。

そこへ父親らしい人が来た。どうやら2人に遅れて歩いていたようだ。父親は事情を聞いて、ひどく憤慨した。「子供を突き飛ばして谷に落とすなんてひでえ奴だ。そいつをとっ捕まえてやる」と言った。しかし、父親には走って追いかける元気はない。

私は自宅に帰ってからインターネットで調べてみた。最近、山を走るのが流行しているようだ。トレイルランニングとか、山岳マラソンとかと呼ばれているらしい。また、欧米のマネらしい。しかし、欧米と異なり、日本の山はなだらかではなので、道が狭く走りにくいだろう。そのためか、専用のシューズもあるらしい。

競技会も定期的に行われているようだ。しかし、街の道路を走るマラソンと異なり、沿道で応援する人はいない。また、監視人もいないし、救護所もない。途中で病気になったり、大怪我をしたりしても救急車は来ない。山歩きと同じで、自己責任である。

考えてみれば、山岳ランナーが山道を走るのは、自転車が歩道を走るのと同じだろう。道路交通法では、基本的に、自転車は車道を走らなければならないことになっている。自転車が歩道を走って良いのは、許可された歩道だけである。また、たとえ許可された歩道であっても、歩道は歩行者優先である。

よって、もし、自転車と歩行者とがぶつかったら、理由を問わず100%自転車の責任である。もし、歩行者が大怪我をしたり、頭を打って死んでしまったりしたら、損害賠償をしなければいけない。また、法的責任を問われることになる。

山岳ランナーが山道を走るのは、自転車が歩道を走るのと同じだろう。よって、山道でも歩行者(ハイカー)優先にすべきだと思う。

また、山道では速さを競うような競技は行うべきではないと思う。もし、どうしても競技を行いたいのであれば、山道を通行止めにして行うべきであろう。マラソンも道路を通行止めにして行っているのであるから。

Ⓒ 開発コンサルティング

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