
第36回で「梅雨時の北アルプス山行の勧め」を書いた。しかし、北アルプスに行くには日程が取れないとか、体力的にも技術的にもムリという人たちのために、梅雨時のハイキングについて書いてみようと思う。
なぜなら、ハイキング、つまり低山歩きに最も適した季節は梅雨時だからだ。初心者は、ハイキングに最も良い季節は春と秋だと思っている。それはおそらく、夏は暑いし冬は寒いが、春と秋は気候的にちょうど良い季節だからだろう。しかし、春も秋もハイキングにはあまり適した季節ではないのだ。その理由は、
春と秋には低気圧が次から次へとやって来る。恐ろしい二つ球低気圧がやって来るし、秋には台風も来る。よって、気温の変化も激しい。春と秋の山では、1日で、15度~20度ぐらい変化する。
気温の変化が激しいのは、体にとっては危険なのだ。初心者は体温調節があまり上手ではないので、体調を崩しやすい。低体温症にかかってしまう恐れもある。
これらにすばやく対処できないと、風でよろけてバランスを崩し転落したり、雨でびしょぬれになって体を冷やしたりする。このため、普段から訓練をしておく必要がある。
例えば、歩いている途中で、横からちょっと押されてもよろけないように体幹を鍛えておく。また、雨具は1分以内にザックから取り出して着られるようにしておく。
そもそも山の天気予報はテレビやラジオでは放送していない。「山沿いでは雨になるでしょう」とか、「山沿いでは風が強いでしょう」などと言うだけだ。よって、山の天気予報は自分でしなければいけない。このため、天気予報の技術や観天望気をある程度は学んでおく必要がある。
ちなみに、私が中高生の頃は、山へ行く人は天気図を書けなくていけないし、天気予報ができなくてはいけない、とされていた。よって、どの文房具店でも天気図用紙が売られていた。
シルクロードならぬ、シルコ(汁粉)ロードなどと言う人もいる。そのため、靴は泥だらけになるし、滑りやすいので、転んで尻餅をついて、尻も泥だらけになる。水分をたくさん含んだ泥だから、下着までびっしょり濡れてしまう。
山の中では他の人も同じなので、あまり気にならないのだが、帰りのバスや電車ではみっともないし、人の迷惑にもなる。当然、座席に座ることはできない。
よって、春と秋は登山技術がないと危険なのである。これらに比較して、梅雨時はどうだろうか。
梅雨だから雨は降る。しかし、梅雨前線の動きは緩やかで、あまり変化しない。天気予報で、「梅雨に入った模様」などと言ったり、梅雨入りの日が後になって、修正されたりする。
したがって、梅雨前線が日本列島から離れれば晴れの日が数日続くので、天気予報は良く当たるのである。しかも、春や秋のように、低気圧が次から次へとやって来ることがないので、1日の気温もあまり変化しないし、風もあまり強く吹かない。よって、天気予報を聞いて、晴れ間を狙って行けば快適な山歩きが楽しめるのである。
梅雨時の晴れ間のことを五月晴れと言うそうだ。5月の晴れだけを五月晴れと言うのではないそうだ。6月でも7月でも梅雨時の晴れ間は五月晴れだそうだ。
私も最近このことを知った。確かに辞書にはそう書いてある。この五月晴れにハイキングに行くのだ。このときが1年で最もハイキングに適した季節なのである。
五月晴れは冬のように寒くなく、夏のように暑くなく、気温もちょうど良い。それに、この頃はそよ風が気持ちいい。新緑も美しい。蓮華ツツジやシロヤシオツツジなどツツジの花盛りである。そして、これらの花の蜜を狙って小鳥がたくさん来るので、小鳥の鳴き声もたくさん聴こえる。
それに、なんと言っても山が静かだ。なぜなら、人があまりいないからである。山を独り占めできる。こんなに良い季節に、梅雨時だから山へ行かないなんてもったいない。ちなみに、ベテランは好んで梅雨時に山へ行くのだ。
もし雨が降っても、天気予報どおりなので、むしろ雨を楽しむこともできる。雨に濡れた木々の緑や花を見ながら静かな山道を歩くのはいいもんだ。この季節に山を歩いていると、ときおり、どこからともなく、いい香りがするときがある。その源をたどってみると、木の香りだったり、花の香りだったりする。
かつて、私はプロ用カメラのハッセルブラッドを持って、好んで梅雨時に花の写真を撮りに山へ行った。梅雨時は花の写真を撮るのに最も適した季節なのだ。なぜかと言うと、雨で花がしっとりと濡れているので、とても美しくなるし、風があまり吹かないので花が揺れず、撮りやすいからである。しかも、雨上がりに薄日が射した時の花びらは、非常にきれいだ。レフ板も要らない。
梅雨時の低山には、ツツジの他に、ウツギ、野バラ、ヤマボウシ、ショウマ、ホタルブクロ、山百合、オダマキ、イカリソウなどが咲いている。これらはよく見かける花だが、他にもあると思う。
私の好きなシモツケソウが咲き始めているのを見つけると、思わずシャッターを切ってしまう。シモツケソウは夏の花で群生して咲くが、梅雨時に1、2輪咲いているのもいいものだ。シモツケソウを見ると、ご飯の上にピンク色のデンブを乗せた、デンブ飯を思い出してしまう。
野バラはバラの原種だそうだが、公園に咲いているいろいろなバラよりも、私は野バラの方が好きだ。野性だからだ。育てられて咲いたのではなく、自分の力で咲いたのだから。
ホタルブクロや山百合が庭で咲いているのを見かけるが、やはり野山に咲いている方がいい。ホタルブクロはその形がいい。子供のころに、蛍を獲ってフクロの中に入れてみたことがある。夜になると蛍の光が淡いピンク色になってとてもきれいだった。
山百合は香りが強いので、近くで咲いていると、すぐにそれと分かる。実は、山百合は神奈川県の県花で、子供のころは近くの山に群生していた。それが次々と採られてしまい、最近は少なくなってしまった。
そういう私も、子供のころ、冬にユリ根を掘って来て、庭に植えて毎年花を咲かせた。年を追うごとに花の数が増え、1株で56個の花が咲いた。父が来年は60個にしようと肥料を入れたためか、翌年は枯れてしまった。
オダマキは糸巻きが語源だが、山でオダマキが咲いているのを見ると、静御前のことを思い出す。静御前が義経を想う気持ちを、舞を踊りながら詠ったということだ。その時の舞台が現在でも鎌倉の鶴岡八幡宮にある。「しずやしず、しずのオダマキ繰り返し、昔を今になすよしもがな」と。愛する人を想う静御前のせつない気持ちが良く分かる。
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梅雨時に五月晴れを狙ってハイキングに行こう。梅雨が明けると、暑くて、ハイキングはできない。