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第52回 山の歩き方はナンバ歩き

ナンバ歩きとは、日本古来の歩き方で、歩幅を小さくし、足と肩とが同じ方向に動く歩き方である。つまり、右足が前に出るときには右肩も前に出る、左足が前に出るときには左肩も前に出る、という歩き方である。

この歩き方は現代の人にとっては、おかしな歩き方に思えるが、非常に合理的で、ムダのない歩き方なのである。西洋の歩き方のように、ムリに歩幅を広くして、かかとから足を下ろすようにしたり、ムリに上半身をひねって手と足の動きを逆の方向にしたりしないので、自然の歩き方なのだ。

重い荷物(又は人)を背負って、階段を登るときのことを想定してみよう。まず、荷物が重いので、体を安定させるために両足を肩幅程度に開いて立つ。つまり、自然体で立つ。次に、左足に体重をかけ重心を左足に移す。そして、右足を持ち上げ、1段上の階段に右足を乗せる。次に、右足に体重をかけ、重心を右足に移すと、自然に右肩が前に出る。次に、右足に力を入れて体全体を持ち上げる。

すると、左足が浮いて地面から離れる。そのまま左足を持ち上げて、次の1段上の階段に左足を乗せる。左足に体重をかけると、自然に左肩が前に出る。次に、左足に力を入れて体全体を持ち上げると、右足が浮いて地面から離れる。これの繰り返しで階段を登る。

今度は、重い荷物を背負って、階段を下りることを想定してみよう。まず、左足に体重をかけ重心を左足に移す。そして、右足を地面から離して前に出して階段を一歩下りる。そして、右足に体重をかけると、右肩が自然に前に出る。次に、左足を地面から離して左足で階段を一歩下りる。そして、左足に体重をかけると、今度は左肩が自然に前に出る。

以上がナンバ歩きである。ナンバ歩きとは自然の歩きなのだ。つまり、余分な力を使わないで歩く方法なのである。この方法は階段の登り下りだけではなく、平らな地面でも同じようにして歩くことができる。重い荷物を背負って、平らな地面を歩くことを想定してみよう。

階段を登り下りするのと同様に、まず、荷物が重いので、体を安定させるために両足を肩幅程度に開いて立つ。つまり、自然体で立つ。左足に体重を移して右足を持ち上げて一歩前に出して地面に下ろす。そして、右足に体重を移すと自然に右肩が前に出る。次に、左足を持ち上げ、左足を一歩前に出して地面に下ろす。そして、左足に体重を移すと左肩が前に出る。これの繰り返しだ。

重い荷物を背負っているときには自然にこのような動きになる。つまり、重心が右足から左足へ、左足から右足へと移動しながら歩くので、体全体が振り子のように左右に少しゆれながら歩くことになるのである。

軽い荷物でも、あるいは荷物を持たない時でも、同じようにして歩けば、余分な力を使わずに歩くことができる。この場合には、重心の移動が容易にできるので、あまり体全体が左右にゆれることもない。

もし、ナンバ歩きが分からない人は、何も持たずに、両手を上着のポケットに入れたまま歩いてみれば良い。つまり、両手を前後に動かさないで歩けば自然にナンバ歩きができる。このときに気づくだろうが、上半身には余分な力が入っていない。つまり、ナンバ歩きでは両肩と両腕の力を抜いているのである。

江戸時代の人たちの歩き方はナンバ歩きであった。時代劇などでは俳優が西洋式の歩き方をしてしまうので、分からないと思うが、記録によればナンバ歩きであった。武士も町人も両手の力を抜いて歩いていた。誰もが和服を着ていた江戸時代では、西洋式の歩き方などはしていない。

ナンバ歩きだけでなく、ナンバ走りもした。例えば、江戸時代の飛脚はナンバ走りであった。飛脚は郵便物を箱に入れ、その箱に取り付けられている棒を肩に担ぎ、棒を両手で持って走っていた。そのため、走っている時には両手はほとんど動かさない。ナンバ歩きやナンバ走りは余分な力を使わない、自然の動きなので、あまり疲れないで長い距離を歩いたり走ったりすることができるのである。

ナンバ歩きは明治時代以前の日本人の日常の歩き方であったという。昔からある盆踊りや阿波踊りなどの動きも、現在の柔道・剣道・空手道などの武道の動きも、ナンバ歩きである。武道の構えから攻撃・防御の動きを見れば、基本の動きは全てナンバ歩きである。左足が前の時は左手も前であり、右足が前の時は右手も前になる。

明治以降、西洋文明が入ってきてから、日本人の歩き方はムダな動きをする西洋式の歩き方に変わってしまった。その原因は、明治時代に富国強兵により、西洋式軍隊の行進の仕方を導入したからである。学校でも、体育の授業で西洋式の歩き方が教えられた。

西洋式の歩き方は、歩幅は広く、足は必ずかかとから着地するようにして歩くのである。そして、左足を前に出すと同時に上半身を逆にひねって右手を前に出す、右足を前に出すと同時に上半身を逆にひねって左手を前に出す、という歩き方である。つまり、足と手は左右逆に動かして歩く方法である。

西洋式の歩き方を導入した理由は、おそらく西洋の方が文明が発達しているからとか、単に恰好いいからということだろう。日本より西洋の方が優れていると勘違いした日本人の島国根性が根本原因であると思われる。

最初に書いたように重い荷物を背負って山を歩くときには自然にナンバ歩きになる。荷物が重いので自然にムダな動きをしないようにするからだ。しかし、軽い荷物のときには、どうしても昔学校で教わった西洋式の歩き方になってしまう。すっかり体に染み付いてしまっているのである。

本来、日本人の歩き方は昔からナンバ歩きなのである。ナンバ歩きはムダな力を使わないので疲れないのだ。それに、あまりスリップしないし、足首、膝、腰などを傷めることがない。

なぜなら、ナンバ歩きは小幅で歩き、足裏全体、又は拇指球(親指の付け根)から着地し、筋肉(バネ)を主に使って歩くため、関節に力がかからないからである。江戸時代のように、草履を履いて歩いて見ればよく分かると思う。草履ではかかとから着地することなどできない。

その一方で、西洋式の歩き方は、かかとから着地するので、スリップしやすい。また、そのため、足首、膝、腰などの関節を痛めてしまう。よって、ナンバ歩きに慣れると山歩きがずっと楽になるのである。

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