ドメインとは企業の生存領域のことを言います。企業はどのような領域でも生きられるわけではないので、自然界に生きる動植物と同様に生存領域を決める必要があるのです。生存領域を戦略として決めるので、戦略ドメインと呼びます。複数の事業を行っている企業の場合は、事業別に生存領域を設定します。
生存領域とは生存する範囲のことですので、生存範囲と言ってもいいわけです。よって、生存領域を広くする場合もあれば狭くする場合もあります。また、生存できる領域がなくなれば、その事業から撤退したり、売却したりするのです。
ちなみに、事業領域と事業内容とは異なります。事業内容はどのような事業なのかを表したもので、通常、定款の「目的」欄に書かれるものです。
生存領域を決める理由は、経営資源が限られているからです。限られた経営資源を有効に活用して生きるために、生存領域を設定し、その領域に経営資源を集中させるのです。例えば、ある市場を生存領域と定めれば、その市場に、資金、人、設備、技術などの経営資源を集中させて、効率的な経営を行うのです。
「事業の選択と集中」とよく言いますが、これはいくつかある事業のうち、今後、発展・成長が望める事業を選択し、この事業に経営資源を集中させることです。よって、選択されなかった事業は撤退したり、売却したりするのです。
経営学の教科書には、経営戦略の主要な要素(内容)として、戦略ドメインを決める必要があることが書かれています。事業領域を決めることが経営戦略の主要な要素と考えられるのは、事業領域というものは環境の変化に伴って変更する必要があるからです。
現在実施している事業が、環境の変化により衰退することが予想されれば、その事業から撤退したり、その事業を売却したりすべきですし、将来、自社にとって有望な事業が新たに生まれれば、その事業に取り組むべきなのです。
特に、業績が悪化している企業はこのことを肝に銘じて欲しいです。いつまでも衰退する事業にしがみついていれば、いっそう業績が悪化し、いずれは倒産することになるからです。ところが、中小企業では事業領域の見直しをあまり行わない傾向にあります。
本来、中小企業は大企業に比較すると身軽であるし、変わり身が早いことが長所なのです。それにもかかわらず、事業領域の見直しを行わずにいると、いずれ業績が悪化して倒産することになります。ちなみに、中小企業白書にも業績が良い企業ほど事業転換をスムーズに行っていることが書かれております。
このことは、もちろん大企業においても同様です。したがって、大企業では常に事業の見直しを行い、事業領域を狭くしたり、広くしたり、また、撤退したり、売却したり、あるいは新事業開発に取り組んだりしているのです。
戦略ドメインを決めるには、まず、経営環境を分析します。経営環境には大きく分けて企業の外部(一般)環境と内部(個別)環境とがあります。外部環境とは、政治、経済、社会、法律などに関することですが、特に、法律改正、規制緩和、技術革新、顧客ニーズの変化、競合他社動向などが重要です。
一方、内部環境とはひと言で言えば経営資源です。つまり、人材、資金、機械・設備、技術、情報、企業文化(風土)などです。
これらの環境についてどう分析するかですが、ケネス・アンドルーズのSWOT分析によれば、外部環境については企業にとって脅威(リスク)となる事項と機会(チャンス)となる事項を明確にします。内部環境については企業にとって強みとなる資源と弱みとなる資源を明確にします。そして、機会となる外部環境に対して、自社の強みを生かした戦略を策定するのです。
しかし、実際には、機会と思っていたことが脅威であったりしますし、強みと思っていたことが、いつの間にか弱みに変っている場合もあります。しかも、強みや弱みは他社との相対的なものですので、よく分かりません。よって、明確に区分することは難しいので、そう簡単に戦略を決めることはできないのです。
また、機会と強みを組み合わせたような当たり前の戦略を継続して実施していると、競合他社に見抜かれてしまいます。そこで、あえてリスクを冒して脅威となる環境に挑戦するとか、弱みを克服して事業を行わなければなりません。
既に書きましたが、元アサヒビールの樋口社長は、「逃げれば脅威、攻めれば機会」と言っておりました。
さて、戦略ドメインを決めるには、まず、標的市場(顧客群)を決めたうえで、その市場の欲求やニーズを把握し、その欲求やニーズを満たすために、独自能力を活用して、どのような商品やサービスを、どのように提供するかを決めることです。
つまり、戦略ドメインを決めるとは、(1)標的市場、(2)標的市場における顧客の欲求やニーズを満たすために独自能力を活用して開発した商品やサービス、(3)独自能力を活用した生産方法や販売方法、などを決めることです。これらにより、事業領域が明確になるわけです。
独自能力とはコア・コンピタンスのことです。コア・コンピタンスは他社との差別化要因ですので、以上の3つを決めれば戦略になるわけです。3つすべてを独自能力を活用しなくても、1つでも構いません。重要なのは、できるだけ差別化を図ることです。これによって、競合他社が容易に追随できなくなります。
ところで、日本の企業では元来、事業領域が曖昧です。その理由は、意思決定と実行がトップダウン方式ではないからです。つまり、日本の企業ではボトムアップ方式、あるいはミドルアップ方式ですので、現場の人たちが環境の変化に対応し、日々商品やサービスの改良や開発を行い、また、生産方法や販売方法の改善や開発に取り組んでいるからです。
つまり、事業領域の見直し・設定を現場で行っているわけです。しかし、現場だけで行っているのは問題です。なぜなら、グローバルな環境の変化に対応できないからです。現場では分からないようなグローバルな環境の変化に対応するには、経営者が中心となって取り組む必要があるのです。
グローバルな環境の変化に対応し、グローバルな競争に勝つためには、有能で強靭な競争相手と戦わなければなりません。そのためには、画期的な新製品や新事業の開発が必要です。つまり、イノベーションに取り組まなければならないのです。
戦略ドメインの具体的な内容は企業秘密ですが、戦略ドメインの概要を顧客に訴求(広告)して、商品やサービスを買ってもらう必要があります。そのためには顧客の立場で分かりやすく戦略ドメインを表現し、どのように訴求するかを検討します。
顧客の立場で戦略ドメインを表現するためには、「わが社は何を誰に売っているのか」の問いに答えればよいのです。この場合の誰はターゲット市場(顧客群)です。また、何をの何は具体的な商品やサービスでなく、商品やサービスによってもたらされる顧客の効用です。
つまり、顧客の欲求やニーズをどのように満たしているのか、それによってもたらされる顧客の効用は何かを明確にします。
例えば、かつて、化粧品メーカーであるレブロンは化粧品を売っていたのではありません。「若さと美しさ」を売っていたのです。かつて、IBMはコンピューターを売っていたのではありません。「問題解決サービス」を売っていたのです。同様に、かつて、サントリーはウイスキーを売っていたのですが、現在では「生活文化」を売っているのです。
そして、これらがもたらす効用がどのような顧客の欲求やニーズをどのように満たしているのかを明確にしているのです。また、そのための独自能力(コアコンピタンス)は何かを明確にしているのです。
これらによって、他社と比較した時に何を差別化しているかが明確にわかります。また、どのように製造し、どのように顧客に提供(販売)しているかによっても他社との差別化が明確になるわけです。これらによって、顧客の立場で戦略ドメインの表現ができるわけです。
戦略ドメインを顧客に訴求するために重要なのは、何よりも表現の仕方です。戦略ドメインは必ず顧客が求める機能を果たす表現にしなければなりません。決して商品名や事業名などの具体的な表現(方法・手段)にしてはいけません。機能すなわち、役割を表す表現にする必要があります。なぜなら、方法・手段は機能を果たす多くの代替案の中の1つに過ぎないからです。
例えば、映画会社が、「映画を売っている」というのと「映像を売っている」というのとでは異なります。また、「エンターテイメントを売っている」というのとも異なります。映画<映像<エンターテイメントのように、映画は具体的で狭い表現であり、映像は映画より広く、エンターテイメントは映像より広い表現になります。
本来、機能は目的を果たすための役割(働き)を表したものです。よって、顧客の立場で戦略ドメインを表現するには、顧客の購入目的を果たすための機能、すなわち顧客の効用を満たすための機能で表現するのが良いのです。つまり、顧客の欲求やニーズを満たす表現にするのです。
よって、具体的な表現ではなく、抽象的な表現にしなければなりません。そうすれば、顧客の多様な欲求やニーズに応えられる表現になりますし、企業にとっても事業領域を広くでき、事業の幅と奥行きが生まれるからです。ただし、あまり事業領域を広くすると、経営資源がムダに使われることになります。
また、表現する方法は、目的語と述語(他動詞)との組み合わせで、「◯◯を◯◯する」という表現にすることにより、端的にかつ明確に表現できます。
さて、「誰に何をどのように売るのか」を決め、ここで差別化を図ったわけですが、差別化は競合他社との比較優位ですから、企業としてはこの比較優位をブレイクダウンして、より明確にしておく必要があります。
市場(顧客)のどのような欲求やニーズに応えているのか、どのような独自技術(コア・コンピタンス)を活用して開発した商品・サービスなのか、どのような生産方法なのか、どのような販売方法なのか、などを明確にします。つまり、どのような比較優位なのか、また、それはどの程度のものか、1~2年で追随されてしまうようなものか、それとも数年間は追随されないものかなどを明確にしておきます。
さて、戦略ドメインの見直し・設定を行う際に、どのようなイノベーションを行うかを決めますが、その際には、当然、自社のコア・コンピタンスを念頭に置いて、他社に数年間は追随されないようにしなければなりません。そのためには、コア・コンピタンスの強化にも取り組まなければなりません。また、弱みを克服する努力も必要です。
戦略ドメインは経営戦略の中でも重要な戦略ですので、企業秘密であり、どの企業でも公開はしておりません。そこで、筆者が戦略ドメインを創作して紹介いたします。戦略ドメインはこんな風に設定します、という事例です。
前回、空白市場の探索方法で紹介しました、「1人~2人乗りの車の開発と製造・販売事業」を事例にして戦略ドメインを創作してみました。
これを事業コンセプト(概要)と捉えても良いと思います。戦略ドメインと事業コンセプトの違いは、戦略(戦い方)が明確になっているかどうかです。明確であれば戦略ドメインであり、明確でなければ事業コンセプトになります。
この車の開発・設計、及び製造(組立)は、小規模な車の修理工場でも可能です。なぜなら、電気自動車の修理の経験があればできるからです。電気自動車は既にある部品を組み合わせれば作れるのです。これはパソコンと同じで、部品の組み合わせの方法さえ分かれば、電気自動車の開発・設計、及び組立ができるのです。
また、ボディ、フレーム、シャフトなどは自動車部品メーカーに外注します。また、修理は主に部品交換ですから、講習を受ければ車のディーラー及びバイクの販売店でもできます。したがって、車のディーラー、及びバイクの販売店を通じて、すぐに全国で受注、及び販売ができます。
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