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開発&コンサルティング

4-7 経営戦略の策定方法

改めて、チャレンジャーとして、日本企業の経営戦略の策定方法について検討してみたいと思います。

1.経営戦略とは

経営戦略の専門書を何冊か読んでみると、経営戦略のいろいろな定義が書かれていて、著者によって異なり、どれが良いのか分かりません。また、経営戦略の定義は未だに定説はないとも書かれています。

これに対し、日経文庫の経営学入門シリーズ、『経営戦略』には、「経営戦略とは、企業が置かれた環境における生存領域に適応するための行動様式である」と定義されています。筆者はこの定義が最も分かりやすいと思います。

この定義に従って経営戦略を策定するためには、まず、企業が置かれた環境を分析して生存領域を設定し、生存領域に適応する行動様式を決めることです。ここで言う行動様式とは、行動の仕方であり、生きるための戦い方であると思います。よって、

  1. 経営環境を分析する
  2. 生存領域を設定する
  3. 生きるための戦い方(戦略)を決める
という3ステップで策定します。

自然界における動植物と同じように、生存領域を決め、その生存領域で生きていくための行動の仕方、戦い方を決めるわけです。企業も動植物と同様に環境に適応できなければ死んでしまいます。「企業とは環境適応業である」と言いますが、常に変化する環境にいかに適応して生きていくかが経営戦略なのです。

企業は環境に規制されますが、逆に環境を変えることもできます。企業は自ら都合の良い環境に変えて生きて行くことができるのです。また、企業は急激に変わる環境にも適応できます。それに対し、動植物は自ら環境を変えることはできませんし、急激に変わる環境に適応することもできません。これらが動植物と異なる点です。

企業は動植物のように、環境に規制されたままでいると、いずれ死んでしまいます。また、急激な環境の変化に適応できないと死んでしまいます。

さて、経営戦略には、企業戦略、事業戦略、機能別戦略、と階層別にありますので、順に策定します。企業戦略は会社全体の戦略であり、全社戦略とも言います。事業戦略は事業別の戦略で、競争戦略とも呼ばれます。したがって、1つの事業しか行っていない企業では、企業戦略=事業戦略となります。

機能別戦略は生産、販売、技術、マーケティング、財務、人事などの機能別(部門別)の戦略です。機能別の戦略が会社の生存にとって最も重要であれば、それが会社全体の企業戦略ともなります。例えば、卸売業や小売業などの流通業では、通常、マーケティング戦略=企業戦略となります。また、企画・開発などの技術力を武器にしているメーカーでは技術戦略=企業戦略となります。

2.日本と欧米の経営戦略の策定方法の違い

組織の編成が先か経営戦略の策定が先か、という議論がありますが、日本では、昔から組織の編成が先でした。なぜなら、日本ではいわゆるトップダウン方式ではなく、ミドルアップ&ダウン方式を取っていたからです。

つまり、日本では組織の上層部(社長・役員)と下層部(一般社員)を連結する中間管理層(部課長や事業部長)が中心となって部門別の機能戦略や事業戦略を立案し、それを上層部がまとめて会社全体の経営戦略とし、その後、指示命令して実行するというステップを取っていたからです。

これは、日本的経営の特徴である、「集団主義による意思決定と実行」によるものです。よって、組織の編成を行ってから経営戦略を立案するのが通例でした。まずは、この点が欧米の企業と日本の企業の経営戦略策定方法の違いでしょう。

日本の多くの企業では、重要な意思決定がいわゆるボトムアップ、あるいはミドルアップで行われるため、経営戦略が明確ではありません。しかも、経営戦略(案)を策定する組織は機能(役割)中心ではなく、人を中心に作られているため、組織の再編成が頻繁に行われ常に流動的です。

日々の業務を通じて、中間管理者が立案した戦術の積み重ねが各部門の機能別戦略になり、それが上層部で統合されて経営戦略になっている場合が多いのです。

日々変化する環境に対応するためには、日本のように現場の第一線の状況を踏まえて徐々に戦略を策定していく、いわゆるインクリメンタル(徐々にできる)型、又はプロセス型と呼ばれる戦略策定の方が、欧米のようなトップダウン型より優れている場合もあります。

なぜなら、この方法は戦略策定には時間がかかりますが、確実に実行できる、という特徴を持っているからです。と言うのも、戦略(案)を立案するのも、戦略を実行するのも中間管理者が中心となって行うからです。集団主義の日本ではこの方法が昔から一般的に行なわれてきました。

ところで、アルフレッド・D・チャンドラーは著書、『経営戦略と組織』に、「組織は戦略に従ってつくられる」と書きましたが、これに対して、インクリメンタル・アプローチをとる日本では、「戦略は組織に従ってつくられる」ということになります。つまり、組織によって戦略を策定し、また組織によって戦略を実行するのです。したがって、日本では「戦略」と「組織」とが一体となっているのです。

3.今後の日本企業の経営戦略の策定方法

既に書きましたように、現在の日本企業の敗因は、環境適応方法が1980年と変わらないからです。つまり、「欧米に追い付け、追い越せ」を未だに行っているのが欧米や中国に負けている原因なのです。このような弱者の戦略、フォロアーの戦略ではダメなのです。チャレンジャーの戦略でなければなりません。

このことは、スポーツを考えれば分かると思います。1番に追い付け、追い越せと頑張るフォロアーと、最初から1番になるぞと頑張るチャレンジャーとでは大きな違いがあります。戦略(戦い方)が違うのです。フォロアーは1番の戦略をフォロー(追随する)のです。チャレンジャーは独自の戦略を採るのです。

例えば、フォロアーは1番(リーダー)が開発した製品の品質向上やコスト削減を図り、1番に追い付き、追い越そうとするのです。一方、チャレンジャーは独自の製品を開発して1番になろうとするのです。

そこで、日本企業の環境適応方法をチャレンジャーの戦略に変えるために、まず、経営戦略の策定方法について検討してみたいと思います。しかし、日本で最も問題なのは、経営戦略の策定方法について日本ではあまり議論されることがないことです。その理由は、日本の企業では経営戦略を重視していないからです。

その証拠に、筆者が学生であった高度経済成長時代には、大学の経営学部では、「日本は憲法で戦争を放棄したのだから戦略論は必要ない」とか、「戦略などということばは平和な時代には使うべきではない」などと言う経営学者がいたのです。

また、筆者が経営コンサルタントになった後にも、企業経営者や先輩コンサルタントの中には、「戦争をしているわけではないので、戦略は必要ない」という人がいました。

そして、経営計画の立て方ばかりを議論していたのです。なぜなら、実際に、ほとんどの企業では経営計画通りにできたからです。しかも、中期経営計画(2年~3年)よりも長期経営計画(5年~10年)が重視されていたのです。欧米に追い付け、追い越せ、の時代でしたから、当然かもしれません。

ちなみに、そのころ欧米では経営戦略論が盛んに議論され、その後、多くの経営戦略の本が出版されました。そのため欧米から、「日本企業には経営戦略はない」と言われていたのです。

高度経済成長が終焉し、グローバル化が進展し、世界的な競争が激しくなった現在でも、日本では経営戦略についての議論があまりなされていません。しかし、昨今のように、経営環境が大きく変化するようになると、環境の変化に応じて経営戦略を策定し、生存領域を変更する必要が生じてきました。

競争がグローバル化したために、グローバルな経営環境を分析したうえで経営戦略を策定し、実行しないと世界的な競争に負けてしまうのです。また、情報技術が発達して競争が激化し、意思決定と実行の迅速化が要求されるようになると、経営戦略の策定に時間をかけているわけには行かなくなりました。

さらに、現在のように、経営環境が頻繁に変化する不確実な現代においては、欧米の経営戦略論の結論が示すように、試行錯誤しながらも迅速に経営戦略を策定し、実行しなければなりません。よって、日本のように組織を通じて時間をかけて経営戦略を策定していてはダメなのです。経営戦略を策定している間に、海外の競合他社は、既に、戦略を実行しているからです。

そこで、欧米のように、グローバルな経営環境を分析し、迅速に経営戦略を策定し、実行する必要があります。世界的な競争が激しく、しかも環境の変化が激しい現代においては、このような方法がどうしても必要なのです。つまり、組織を通じて経営戦略を策定する方法ではなく、グローバルな経営環境を分析したうえで経営者が自ら経営戦略を策定し、実行しなければならないのです。

なぜなら、経営環境の変化により、企業の生存領域(ドメイン)を変更しなければならない場合には、組織を通じて経営戦略を策定することはできないからです。と言うのも、部門長や事業部長が自から部門や事業部を廃止するわけがないからです。部や事業部の廃止を決定するのは経営者にしかできないのです。また、新規事業を開発する決定をするのは経営者にしかできません。

経営環境の変化により、既存部門や既存事業部の廃止(選択と集中)を行ったり、新規事業の開発を行ったりする必要があるのです。また、経営者が経営戦略を策定することにより、経営戦略を迅速に策定できるようになります。

このためには、まず、組織を通じて経営戦略を立案・策定するための会議・打ち合わせを廃止します。そして、経営企画室などによるグローバルな経営環境の分析を行います。そして、各部門長や事業部長の意見を個別に聞いたうえで、経営者が経営戦略を策定するのです。要するに、組織を通じて行う、多数決による集団的意思決定を止めるのです。

これによって、これまで業績が悪く、廃止したくてもできなかった事業を廃止したり、突飛だとか、無謀だとかと言われて拒否された新規事業開発もトップの判断で実行できるようになります。

要するに、経営戦略の策定は個人の意見や価値観を重視する個人主義で行い、経営戦略の実行はこれまでどおり集団主義で行うのです。トップが策定した戦略に反対する人たちも、トップの実行命令によって、実行する際には協力して実行するのです。

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