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開発&コンサルティング

4-5 日本企業の敗因は現在の環境適応方法が1980年と変わらないから

前回、日本企業と米国企業の環境適応方法の比較を調査した結果を要約しました。これを見ると、調査が行われた1980年と、現在の日本企業の環境適応方法はあまり変らないことが分かります。また、日本企業と米国企業の環境適応方法の違いが現在の状況を生んでいることがよく分かります。

つまり、現在、日本企業が米国企業に遅れをとっている原因がよく分かるのです。それだけではありません。新興国であった中国企業にも追い抜かれてしまったのですが、その原因も分かるのです。

この調査が行われた翌年の1981年には、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という本が米国で出版され話題になりました。実際に、そのころの日本は米国経済を脅かし、米国経済を追い越すほどの勢いがありました。例えば、米国経済の象徴であった、ロックフェラー財団の本部ビルを日本企業が買収したのです。

戦後、日本は欧米に追い付け、追い越せと、国が率先して、また、各社が一丸となって取り組みました。その結果、世界中の人たちが目を見張るほどの高度経済成長を成し遂げたのです。そして、日本がナンバー・ワンと言われるほどになったのです。

では、何が原因で、現在、米国や中国に後れをとるようになってしまったのでしょうか。それは、企業の環境適応方法の違いにあります。

日本企業の環境適応方法をひと口で言えば、欧米に追い付き、追い越すために、がむしゃらに突き進むことでした。各社がやるべきことは分かっていたからです。消費者が求める製品を、欧米よりも品質が良く、しかも安く、大量に生産することでした。各社は互いにしのぎを削って、このことを実行したのです。

消費者が求める製品と言うのは、欧米人の多くは所有しているのですが、日本人の多くは所有していない製品です。その主なものが、近代的で広い住宅、自動車、近代的な家電製品などです。今から約60年前、筆者が中学生だった頃、英語の教科書に欧米人の生活が描かれていて、それが夢のような生活に思えました。

各社がしのぎを削ってそれらの製品を生産すれば、経営目標としては、ROIよりもシェアを重視することになります。また、日本企業が新製品比率を重視するとは言っても、それは欧米人が所有している製品より品質が良くて安い製品のことであって、欧米人が所有していない新しい機能を備えた製品ではないのです。

よって、戦略としては製品戦略よりも生産戦略を重視し、変化に対応できる生産技術を採用したのです。そして、生産規模を拡大するために経営資源の蓄積を図りました。

また、米国企業の対決志向型の戦略に対して、日本企業は競争相手を蹴落とすようなことはせず、競争相手と共存するためにニッチ市場を狙って差別化を図る戦略を採用したのです。その結果、市場成長率も競争力も低い、問題児製品や負け犬製品ばかりを生産することになったのです。

これは調査結果にも書かれているように、通常、弱者の戦略、あるいは追従者(フォロワー)の戦略と呼ばれています。

ところで、市場の競争対抗戦略には4つの類型があります。「リーダー」「チャレンジャ―」「フォロアー」「ニッチャー」です。

リーダーは最大市場シェア、最大利潤、名声などを維持・向上させていきます。チャレンジャーはリーダーとは異なる戦略で、リーダーの地位を狙っていつかその地位につこうと挑戦します。フォロアーはリーダーやチャレンジャ―の戦略を模倣し、良いものを安く提供して存続しようとします。よって、フォロアーにはユニーク性は乏しく、大きな成長や他社を抜きんでる飛躍はないのです。

日本の企業は日本の顧客だけをターゲットにしていたため、良い製品を安く提供することだけを追求したのです。つまり、他国の顧客の欲求やニーズに応えようとしなかったために、発展途上国では中国の製品に負けてしまったのです。

と言うのも、発展途上国では低所得者が多く、品質が悪くても、より価格の安い製品が好まれたのですが、日本では品質を良くすることを追求したために、いわゆる「安かろう悪かろう」の製品を製造・販売することはしなかったのです。

また、生産技術が変化に対応できる技術であれば、当然、組織構造も有機的組織になります。また、収益性を重視するよりも、良い製品を安く生産することを重視すれば、財務部門よりも製造部門のパワーが大きくなります。さらに、新製品の開発を行って多角化を図るよりも、既存製品の品質向上やコスト削減を重視すれば事業部制の採用率は低くなります。

そして、日本的経営の特徴と言われている集団的意思決定によって、みんなで決めて、みんなで一致団結して実行したのです。経営者といっても1人で決めることはなく、多数決によってみんなで決めるので、経営者が革新的なイニシアティブを発揮することはほとんどありません。また、欧米に追い付くためにやるべきことは決まっていたので、経営戦略よりも経営計画を重視して突き進んだのです。

このように見てくれば、日本企業の環境適応方法は現在も1980年当時とあまり変わっていないことが分かると思います。異なるところは、現在は少子高齢化が進んでいるために、拡大路線を進むことはありませんので、経営目標は売上やシャアよりも利益を重視するようになっています。また、経営資源の蓄積よりも経営資源の活用を重視しています。

しかし、その他の環境適応方法はあまり変っておりません。つまり、未だに、国を挙げて欧米に追い付け、追い越せ、を継続実施しているのです。そして、弱者の戦略、フォロアーの戦略を未だに採用しているのです。

現在の追いつけ、追い越せの主な相手は欧米ではなく、IT(情報技術)です。ITはいろいろな製品やサービスに活用できますし、IoT(あらゆる物をインターネットにつなげる技術)やAI(人工知能)など第4次産業革命に結びつく技術でもあります。そこで、現在、ITで遅れをとっている日本は、国が率先してIT人材の育成を進めているのです。つまり、未だに技術に固執しているのです。

しかし、仮に、日本のIT人材が大勢育成できたとしても、画期的な製品やサービス、画期的な事業などが開発できるわけではありません。なぜなら、ITはあくまで道具に過ぎないからです。本来、技術とは道具なのです。

画期的な製品やサービス、画期的な事業を開発するには、イノベーション(革新)が必要なのですが、このためには、弱者の戦略、フォロワー(追従者)の戦略ではなく、チャレンジャー(挑戦者)の戦略を採る必要があるのです。

ところで、現在の中国にはIT人材がすでに大勢います。米国の企業で修業した大勢の若者たちが、中国に帰ってITベンチャーを次々を立ち上げているのです。その結果、中国製の自動運転車は、既に、実用化されていますし、また、中国製の家電は日本の家電より進化しています。

例えば、冷蔵庫の前に立つと冷蔵庫が健康診断をしてくれて、体に合った料理のレシピを冷蔵庫の中にある食材から選んで提案してくれるのです。要するに、日本のお家芸であった自動車や家電も既に中国に追い越されてしまったのです。

それだけではありません。あと数年すると、日本はインドにも追い越されることになると思います。なぜなら、インドには既にIT人材が日本の人口と同じくらいいるからです。つまり、1億人以上もいるのです。と言うのも、インドには昔からカースト制という制度があって、生まれた時から職業が決まっているのですが、IT技術者は新しい職業であるため、カースト制から除かれているからです。

現在、インドでは、カースト制は法律上は撤廃されましたが、慣習はまだ残っています。よって、職業の自由を求めて大勢の若者がIT技術者になっているのです。そして、インド国内にある米国企業で修業を積んでいるのです。インド国内には多くの米国のIT企業が存在します。なぜなら、インドと米国はちょうど地球の反対側にあって、一方が昼間の時は他方が夜なので、24時間営業ができるからです。

さらに、インドでは昔からITの基礎となる数学の教育を重視していましたし、また、インドはかつてイギリスの植民地であったために英語は公用語です。したがって、日本人のように数学に対する苦手意識もありませんし、言葉の壁もありません。米国企業で修業を積んだ大勢の若いインド人たちが、多くのITベンチャーを立ち上げているのです。

日本人は数学も英語も苦手ですし、最近では海外に留学する人も、海外で働こうとする人も減っています。グローバル化が進んでいるにもかかわらず、日本人は相変わらず、海外に目を向けようとはしません。井の中の蛙です。これでは、日本が中国やインドに後れを取るのは自然の成り行きです。

第4次産業革命が進行しつつある現在、イノベーションは世界中で重視されています。よって、今後はイノベーションの競争になるはずです。そこで、次回以降、チャレンジャーとしての戦略を採用してイノベーションを遂行するためにどのようにすれば良いかについて、検討していくことにします。

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