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開発&コンサルティング

4-17 従業員のやる気を引き出すには

1.人事評価制度の見直し

従業員がやる気にならなければ、日常の業務だけでなく、業務効率化活動や業務改革活動などはできません。そのため、改善・開発・改革などのコンサルティングを行う際には、必ずと言って良いほど、従業員のやる気を引き出すにはどうすれば良いかについて経営者から質問を受けます。

これらの前向きの活動を従業員が反対する理由を調べてみると、そもそも余計な仕事はしたくないとか、できるだけ楽して給料をもらいたい、と考えている人が多いことが分かります。つまり、やる気のない人が多いわけです。

最近では、デスクワークはパソコンを使って行いますので、企業によっては各自のパソコンのログを取っておき、パソコンの利用状況を記録しています。これによって、どのパソコン(誰)がどの時刻にどのような仕事をしたのかが明確になるわけです。

この結果を円グラフにすれば一目瞭然で、どの仕事をどのくらいの時間かけて行っていたか、だけでなく、どの趣味のサイトをどのくらいの時間見ていたかなども分かります。仕事中にアダルトサイトや株の取引きサイトを見ている人もいます。

仕事をろくにしないで、趣味のサイトなどを見ている人に限って、「仕事している分だけ給料をよこせ」などと言います。そういう人にはパソコンのログを示して、本人の希望通り、仕事している分だけ支払えば給料はかなり少なくてすみます。

しかし、パソコンのログを取っている企業でもそんなことはしません。そんなことをしてもやる気になるとは思えないからです。やる気にさせる方法の1つは仕事の成果を正しく評価することです。しかし、これができていない企業が多いです。

さて、人を評価する方法として人事評価制度がありますが、そもそも人を正しく評価するのは非常に難しいのです。人類の歴史が始まって以来、未だに納得できる人事評価制度ができていないからです。古代ギリシャの時代でも年配者は常に、「近ごろの若者は・・・・・・」と言っていたのです。

人を正しく評価するのは神様でなければできないでしょう。なぜなら、人は誰でも生まれ育った環境によって、考え方や価値観が異なるからです。人の考え方や価値観は、仮に一緒に生活していても分からないことが多いのです。

したがって、特に、多様な能力や価値観を持った人を評価するためには、人を評価するのではなく、あくまで、仕事を評価するのです。

ところが、多くの企業では仕事を評価せず、人を評価しており、しかも、人を正しく評価するのが難しいため、人事評価制度を重視していない企業が多いです。

例えば、人事評価の方法を従業員にいろいろと説明していても、結局は上司の好みで昇給・昇進を決めたりしている企業が多いのです。そもそも、従業員の希望を無視して、会社の都合だけで従業員が行う仕事を決めているのです。これではやる気になるわけがありません。

仕事を評価する目的は、従業員の労働意欲を高め、企業業績を上げるためです。また、従業員の育成や能力開発を行い離職率を下げるためでもあります。

人事評価制度を重視していない企業では、当然、従業員の労働意欲が高くならず、離職率も高くなってしまいます。そこで、人事評価制度を見直すために、人事評価制度の基になる人事制度を、まず、本来の姿に戻すべきです。つまり、いずれの人事制度も年齢や学歴に関係のない制度にすべきなのです。

本来、年功的人事制度は勤続年数の長さ、及び習得した固有技術に応じて報酬を支払う人事制度であり、能力主義人事制度は、職務遂行能力によって差をつける人事制度なのです。また、実力・成果主義人事制度は、実力及び成果に応じてメリハリをつけて(大きく差をつけて)報酬を支払う人事制度なのです。

年功的人事制度の場合は、勤続年数(原因)と習得した固有技術(結果)で評価すれば問題は生じません。なぜなら、この制度の目的は長期間訓練をしなければ習得できない企業の固有技術を習得させて、長期間にわたって他社との差別化を図るために設計した制度だからです。

つまり、年功的人事制度に基づく評価は、本来、長く勤務して企業固有の技術を習得したかどうかで評価すれば良いのです。

なお、勤続年数が長くても、習得した固有技術のレベルが低ければ、当然、評価は低くします。逆に、勤続年数が短くても、習得した固有技術のレベルが高ければ評価は高くします。

能力主義人事制度の場合は職務遂行能力(原因)をどのように評価するかですが、客観的に評価するためには公的資格や他社の資格、あるいは入社試験や社内の昇格・昇進試験などによって評価します。また、能力を発揮した成果(結果)は、「利益が減るのをどのくらい防止したか」で評価します。

しかし、業務によっては投入コストは計算できても、成果が計算できないものもあります。その際には、能力(原因)を重視して評価します。つまり、保有する資格や昇進試験の結果で評価します。なぜなら、能力主義人事制度だからです。

なお、当然ですが、労働意欲や勤務態度などは評価しません。これらは人を評価するものだからです。仕事を基準に評価するのであれば必要のないものです。なお、労働意欲がなければ、また、勤務態度が悪ければ、当然、昇進試験の成績は悪くなります。

なぜなら、昇進試験は仕事ができるか否か、また、どのくらいできるかの試験にすべきだからです。つまり、仕事に関する試験であり人に関する試験ではないのです。

このことは、例えば学校の成績を考えてみれば分かると思います。普段から学習意欲がなく、また学習態度が悪ければ、当然、成績も良くはなりません。つまり、試験の結果を見れば学習意欲が高かったか低かったか、学習態度が良かったか悪かったかが分かるのです。

以上のように、労働意欲や勤務態度などを評価する、いわゆる情意評価を廃止して、客観的に仕事ができるかどうかを評価すれば、評価者が陥りやすいいろいろな評価の間違いを防ぐことができるのです。つまり、公平で従業員が納得できる評価ができます。よって、評価者訓練を行う必要はありません。

そもそも、多様な能力や価値観を持った人を、多様な能力や価値観を持たない人が評価することなどできないはずです。そのうえ、労働意欲が低かったり勤務態度が悪かったりするのは従業員が原因なのではなく、上司、あるいは会社に原因がある場合が多いです。

実力・成果主義人事制度の場合には、純粋に仕事の実力と成果で評価するので問題ないと思います。なお、具体的な評価項目や評価の仕方などは各社で決めれば良いと思います。なぜなら、企業によって異なるからです。

≪筆者が考える今後の人事評価制度≫
能力\目的付加価値を高める仕事付加価値が減るのを防ぐ仕事
企業固有能力
(ストック型)
年功的人事制度
(勤続年数と習得した固有技術によって評価する)
企業共通能力
(フロー型)
実力・成果主義人事制度
(公的資格、社外資格、社内の昇進試験などで実力を評価し、稼いだ利益額で成果を評価する)
能力主義人事制度
(公的資格、社外資格、社内の昇進試験などで能力を評価し、利益が減るのを防いだ金額で成果を評価する)

次に、人事評価制度で重要な人の育成、能力開発について説明したいと思います。人を評価するのではなく、仕事を評価しますが、その際に、個人の仕事だけを評価するのでなく、一緒に仕事を行ったチームの仕事も評価するのです。仕事は1人で行う場合とチームで協力して行う場合とがあります。よって、1人ひとりに対する評価とチームに対する評価を行うのです。

チームで行った仕事の評価を行うことによって、人と協力し合ったりお互いに学習しあったりしたことによって、より高い成果を出したことを評価できます。このことは、各人の能力開発にもつながります。また、チームリーダーがメンバーを育成したことも評価できます。

要するに、人事評価は、従業員1人ひとりの仕事に対する評価だけでなく、係(チーム)、課(グループ)、部などが行った仕事に対しても評価する必要があるのです。そうすれば、当然、お互いに協力し合って、より良い成果を出そうと努力します。このことによって、人の育成や能力開発ができるのです。

つまり、OJTによる育成や能力開発ができます。また、同時に、仕事に関する社内研修や社外研修によって、公的資格や社外資格の取得を目指すことを会社が支援します。

最後に、しつこいようですが、絶対に人を評価してはいけません。神様でなければできないことだからです。仕事ができるかできないか、仕事ができたかできなかったかを評価するのです。

仕事がどのくらいできるかを評価したうえで、以下の図のように、能力の120%程度の仕事を与えるとやる気が出ます。能力以下だとダラクし、能力と同じくらいの仕事を与えるとマンネリ化します。また、仕事をするのに必要な能力が、自分の能力よりはるかに高いとアキラメます。

能力とやる気の関係

2.近代以前の動機づけ論とトヨタの提案制度

離職率を劇的に下げ、従業員のやる気スイッチを入れるには、人事評価制度だけでなく従業員に対する積極的な動機づけが必要です。

人をやる気にさせる、すなわち動機づけ(モチベーション)に関する研究は、経営学においては100年以上の歴史があり、膨大な実証研究がなされております。そして、近年は行動科学という学問分野を形成しております。よって、ここではそれらを全て紹介することはできません。

そこで、まず、行動科学以前の実証研究の中で、現在でも有効な「人間関係論」について説明した上で、トヨタの提案制度について紹介したいと思います。

最初に、動機づけの定義ですが、「動機づけとは、行動を喚起させ、それを維持し、それを統制していく過程」を言います。よって、まず、行動を起こさせるのが重要です。行動を起こさせるには、従業員の持つ様々な欲求や期待を企業が充足し、従業員の積極的な行動意欲を駆り立てなければなりません。

したがって、単に指示命令してもダメですし、訴えてもダメなのです。ポイントは従業員の持つ欲求や期待を企業がいかに充足するかなのです。そうしなければ行動意欲がわかないからです。要するに従業員の欲求や期待に応えなければ従業員は行動しないということです。

顧客の欲求や期待に応えなければ商品やサービスが売れないのと同様に、従業員の欲求や期待に応えなければ従業員は行動しないのです。

しかし、その前に、従業員を人間として扱わなければなりません。と言うのも、従業員を人間として扱っていない企業が未だに多いからです。労働基準法を守らない、いわゆるブラック企業と呼ばれる企業もその一例です。近代の行動科学以前の問題ですが、従業員を人間として扱うために、かつて人間関係論というのがありました。

人間関係論は、「従業員は非公式(インフォーマル)組織に適応し、人間関係に満足すると協働意欲(モラール)が高まる」というものです。しかし、協働意欲が高まっても業績に結びつくとは限らないのです。これが人間関係論の限界であり、このため行動科学とは言えないのです。

さて、この人間関係論に基づくいろいろな施策があります。職場懇談会、提案制度、社内報、人事相談制度(カウンセリング)、苦情処理制度、従業員意識調査(モラールサーベイ)などです。これらの施策は協働意欲を高めるためには効果がありますので、既に、多くの企業で採用しているわけです。

しかし、このような施策すら実施していない企業が未だに存在するのです。それなのに、「従業員をやる気にさせるにはどうすれば良いか」などと言っているわけです。経営者なら、少しは経営のことを勉強して下さい、と言いたいです。

さて、この中でも、推進の仕方さえ間違わなければ、業績向上に結び付けられる「提案制度」について考えてみたいと思います。従業員の労働意欲を高める方法の1つは、仕事の成果に応じて報酬を払うことです。しかも、指示された仕事を行うだけでなく、その仕事のムダをなくし、改善をした場合には、その成果に対しても報酬を払う必要があります。

そうしなければ従業員は改善をしようとしません。なぜなら、改善は指示された仕事以外の余計な仕事だからです。余計な仕事をして何ももらえなければ、しないほうが良いと思うからです。よって、改善という仕事に対して報酬を払う必要があるのです。

褒めるのも報酬ですが、褒めるだけでなく、成果に応じて賞金を払うようにしないとダメです。改善は、通常、成果を金額で表現しやすいので賞金を決めやすいのです。しかし、褒めて賞金を払えば良いかと言うとそう簡単ではないのです。

そこで、どのように提案制度を推進すれば良いかについて、トヨタの提案制度を参考に書いてみようと思います。トヨタの提案制度は有名ですが、始めたのは昭和26年だそうです。これが非常に成功しているということから、多くの企業が提案制度を設けました。

ところが、最初のうちは良かったのですが、次第に提案件数が少なくなって、提案する人がいなくなり、結局、中止してしまった、という企業が多いのです。その主な問題点を挙げてみると、

1.職場ごとに提案件数を競わせたために、次第に内容よりも件数を重視するようになった。

2.提案件数が多くなると賞金額を引き下げるため、提案しなくなった。

3.提案した内容を正しく評価しないために、不公平感を生んでしまった。

などです。これらの問題点に対する原因は、どれも提案制度の推進の仕方にあります。

まず、1番目の原因ですが、企業は、従業員にできるだけ多く提案してもらえば、多く改善できると考えたことから、提案件数を競わせたのです。ところが、従業員からすれば、賞金を多くもらいたいから件数を多く提案するわけです。要するに、企業が内容よりも件数を重視したため、従業員が多く提案しても賞金を多くもらえるわけではなかったのが原因です。

2番目の原因ですが、提案件数が増えてくると、報酬額の総額が増えて、改善効果より報酬額の方が多くなってしまうため、引き下げざるを得なくなったからです。

3番目の原因は、提案内容ではなく提案した人によって評価してしまうためです。例えば、ベテラン社員の提案は高く評価し、新入社員の提案は低く評価するとか、普段の労働意欲や態度で評価するとかです。

以上のような提案制度ではうまくいくわけがありません。まず、提案件数を競わせないで、あくまで提案内容、及びその効果を重視しなければいけません。提案する場合には、まず、職場内で提案内容を検討し、実施してみて効果を確認してから提案するようにします。必要ならば内容を修正してから提案します。

次に、それをまず、直属の上司が評価基準に基づき評価し、それを専門分野ごとの分科会に提出します。分科会では内容、及び直属の上司の評価を審査して、優秀なものは役員会の審査にかけます。そして、賞金は内容、及び成果に応じて支払います。

以上簡単に書きましたが、これは実はトヨタの「創意くふう提案制度」の特徴です。これで分かるのは、提案する時にはまず、職場内で検討し、実施してみて効果を確認し、より良い内容にしてから提案するということです。

これによって、職場内の協働意欲(モラール)が高まります。個人が提案したものを職場でより良い案にしてから提案するというのは、提案者が確実に多くの賞金をもらえるように職場の仲間が協力するということです。

次に評価基準が予め決められているということです。評価基準が決められていれば誰が評価しても同じように評価できます。また、直属の上司が評価したものを専門分野ごとの分科会で審査しますから、内容だけでなく評価自体も間違っていないかどうかが審査されるわけです。

そのうえ、提案する前に効果を職場内で確認しますし、賞金額についても評価基準(内容、及び成果)で決められているので、提案する時には賞金額が分かるようになっているわけです。

つまり、提案内容、及び成果によって賞金額が決まるということです。成果はあくまで予測ですが、ある程度予測できるので、提案の段階で賞金額が分かるわけです。

ところで、トヨタの従業員はなぜ改善提案をするのか、それは、「賞金を多くもらいたい、というよりも自分の仕事を少しでも楽にしたいから」だそうです。これがトヨタの創意くふう提案制度を支えている精神なのだそうです。

実は、トヨタの一般従業員にはコスト意識はあまりないそうです。経営者・管理者にはコスト意識が必要ですが、一般従業員は、単に、自分の仕事を少しでも楽にしたい、という自己欲求のために改善をするのだそうです。

つまり、それだけ仕事がきついということです。短時間で、常に質の高い仕事を要求されているからです。これは、工場現場だけではありません。デスクワークにおいても同様なのです。つまり、経営者・管理者(ホワイトカラー)も同様なのです。だらだらと長時間労働をしているような企業は肝に銘じるべきです。

ところで、トヨタではQCサークル活動も行っていますが、創意くふう提案制度は個人主体の活動であり、QCサークル活動は職場主体の活動です。よって、これらが相乗効果をもたらしているのです。

3.代表的な近代の動機づけ論と従業員の意識調査方法

近代の動機づけ(モティベーション)論の代表的なものには、マズローの欲求段階説、アージリスの未成熟・成熟理論、マグレガーのX理論・Y理論、ハーズバーグの動機づけ・衛生理論、リッカートの参加的システム論、ポーター&ローラーの期待理論などがあります。

これらは経営学の教科書に書いてあるものですが、それぞれ簡単に説明し、そのうえで筆者の意見を添えて書いてみたいと思います。

≪マズローの欲求段階説≫

人間の欲求には5つの段階があり、低次元の欲求から高次元の欲求へと順に進むというものです。すなわち、生理的欲求⇒安全への欲求⇒社会的欲求(所属と愛の欲求)⇒尊敬と自尊心の欲求(自我の欲求)⇒自己実現の欲求、と進むというものです。したがって、従業員にどのような段階の欲求があるかを見極めて対策すれば良いということです。

しかし、実際には、この説のように順に進むわけではなく、これらの欲求が並行して存在しているので、現在、どの欲求が最も強いのかを従業員1人ひとり見極めて対策しなければいけないのです。1人ひとりの異なる欲求を見極めることは難しいと思います。

≪アージリスの未成熟・成熟理論≫

個人は成長・発展したいという欲求、すなわち未成熟から成熟の段階に向かおうとする欲求を持っているというものです。

このため、従来の伝統的な組織原則である、「専門化の原則」「統制範囲の原則」「命令一元化の原則」などでは、従業員の多様な行動を妨げ、自主性を阻害し、受動的、依存的、短期志向的な人間を育ててしまうため、個人の成長が阻害され、欲求の充足が実現しないというものです。

したがって、組織と個人との軋轢(あつれき)を解決する手段として、「職務拡大」と「参加的リーダーシップ(従業員中心のリーダーシップ)」を導入すべきであるという理論です。

しかし、これには個人差があって、誰もが成長発展したいと思っていても、誰もが「職務拡大」によって、いろいろな仕事に取り組んでみたいわけではないと思います。また、誰もがリーダーシップを取りたいわけではないと思います。

≪マグレガーのX理論・Y理論≫

人間には相反する2つの見方があり、1つは、人間は生来仕事嫌いで、仕事をさせるには強制、命令、処罰が必要であり、人は責任を回避し、安全第一を望んでいるという見方です(これをX理論という)。

もう1つは、人間は生来、欲求が満たされれば献身的に働き、また、創意工夫の能力が備わっているが、その一部しか生かされていないという見方です(これをY理論という)。

この理論は分かりやすく、実際に効果があるので、このY理論に基づき、多くの企業では「目標による管理」が行われています。しかし、目標の決め方が問題です。企業の目標と従業員の目標が一致するようにしないと、効果はありません。このためには、まず、企業の目標、部門の目標などを具体的に示すことです。

また、目標管理を取り入れている企業では、仕事ができるようなることを目標にしないで、人を育成することを目標にしてしまうので、従業員の納得が得られなくなってしまうのです。

≪ハーズバーグの動機づけ・衛生理論≫

人間を動機づけるには衛生要因(不満足要因)を減少させ、動機づけ要因(満足要因)を充足させなければならないという理論です。衛生要因とは不快を避け安全を図りたいという回避欲求であり、会社の政策、管理・監督、給与、人間関係、作業環境などに不快・不満足があれば、それを回避したいというものです。

一方、動機づけ要因とは自分が持っている潜在能力を実現したいという欲求であり、仕事の達成感、業績の承認、仕事の責任の程度、個人の成長などに満足が得られれば動機づけられるというものです。

この理論の特徴は、衛生要因を減らせば不満は解消されるが、動機づけられるわけではなく、また、動機づけ要因を増やせば動機づけられるが不満が解消されるわけではないという点です。つまり、両方を実施しなければいけないということです。

この理論は正しいと思われるのですが、実施するのが難しいのです。なぜなら、衛生要因や動機づけ要因を調査して明確にするのが難しいからです。そこで、筆者が実際に行っているアンケートによる調査方法を最後に紹介いたします。

≪リッカートの参加的システム論≫

リーダーシップを独善的専制型(システム1)、温情的専制型(システム2)、相談型(システム3)、集団参加型(システム4)の4つの類型に分類した場合、この中で集団参加型が最も良いという理論です。

集団参加型では、リーダーは組織構成員が相互に協力的な信頼関係を築くようにしなければならないということと、小集団による参加的意思決定システムにしなければならないということです。このようにすれば動機づけられるという理論です。

分かりやすく言えば、企業は、部、課、係などの小集団からできており、それぞれの小集団の構成員(部員、課員、係員など)が相互に協力的であり、しかも、積極的に意見を言って、意思決定に参加できるような仕組みにしなければいけないと言うことです。

この理論は理想的であり、どの企業でもこうしたいと願っているはずです。しかし、このような仕組みを作ることやリーダーの育成が難しいのです。

≪ポーター&ローラーの期待理論≫

人間は努力して高い業績を上げれば、金銭だけでなく自己実現が達成されるなどの報酬が増加すると期待するものであり、この報酬への期待の大きさと魅力度とによって、動機づけの程度が決まるというものです。そこで、企業は従業員1人ひとりがどのような報酬を期待しているかを見極めて、それに仕事を関連付けるようにしなければいけないということです。

この期待理論に基づく動機づけが最も効果があると思います。よって、筆者の動機づけの考え方もこの理論と同じです。つまり、まず、従業員が望む仕事をしてもらうことです。そして、業績を上げた場合にはそれを正しく評価することです。つぎに、従業員がどのような報酬を期待しているかを見極めて、企業はそれに応えることです。

さて、以上、代表的な動機づけ理論について説明しましたが、これらの理論に基づき、動機づけを行っている企業、あるいは経営者・管理者は実際には少ないと思います。なぜなら、ほとんどの企業、あるいは経営者・管理者はこれらの理論を知らないからです。また、知っていても実施しないからです。

それなのに、従業員のやる気を引き出すにはどうすれば良いかと日々悩んでいるのです。経営学の入門書に書いてあるのに読もうともしないのです。つまり、経営者・管理者がやる気がないのです。

そこで、従業員だけでなく、経営者・管理者もやる気がない企業で、その原因を探るために、筆者が行っている動機づけ・衛生理論に基づく意識調査(アンケート調査)を紹介しようと思います。

以下のアンケート調査の内容を見ていただければお分かりのように、無記名でしかも会社(経営者・管理者)に内容が分からないように、直接、筆者宛に意見を送ってもらうので、ほとんどの人が協力してくれます。

記入項目は前半が衛生要因で、後半が動機づけ要因です。これらから、各項目に対して不満足なのか、満足なのかかが分かるし、その原因も具体的に分かるので対策しやすいわけです。


≪アンケート調査≫

1.目的と基本的考え方

従業員の皆さんが、現在、不満に思っていることや満足していることについて調査させていただき、不満をできるだけ解消し、従業員満足の向上を図りたい、というのがこのアンケート調査の目的です。

と言うのも、今回の業務改革活動の目的の1つに、「従業員満足の向上」があります。「従業員が満足して働くことができなければ決して顧客満足は得られない。顧客満足が得られなければ企業業績が向上しない。企業業績が向上しなければ従業員の給料も高くできない」というのが基本的な考え方です。ご協力よろしくお願いいたします。

2.進め方

以下の各項目について、自由にご意見を書いていただき、無記名(名前を書かない)で、また、会社(経営者・管理者)に見せないで、直接、郵送あるいはメールに添付して、コンサルタント宛に送ってください。分量は多いほど、また詳しいほど歓迎いたします。

1.会社の戦略・方針について

2.上司の管理・監督について

3.上司や同僚との人間関係について

4.給料、賃金、労働時間、休日などの労働条件について

5.働く職場の環境について

6.仕事の達成感について

7.仕事の成果に対する評価について

8.仕事の責任について

9.自己の成長、学習・訓練について

10.その他、思ったことを自由に書いてください


4.会社は従業員をどう見ているか

従業員は知っておかなければいけないことがあります。それは、どのような仕事でも一人前になるまでには最低でも5年はかかるということです。昔は、10年かかると言われていました。最近では企業間競争が激しく10年もかけていられないので、企業はできるだけ早く従業員に仕事を習得させ、一人前にしようとしています。

一人前という意味は上司や先輩の手を借りずにひとりで仕事ができるという意味です。つまり、一人前になるまでは、上司や先輩の手を借りながら、又は指導を受けながら仕事をするわけです。入社して1、2年の間は仕事をすると言うよりもむしろ、上司や先輩の手伝いをしているのです。

通常、新入社員を一人前にするまでに、5年間で3,000万円から4,000万円かかると言われています。そんな馬鹿なと思われる人は、実際に計算してみて下さい。

事務消耗品費や水道光熱費などの間接経費を除いて、本人にかかる直接人件費だけを、次の計算式で計算してみると、実際にそうなっていることが分かります。御社の場合はいくらになったでしょうか。

直接人件費=給料+法定福利費+福利厚生費+備品費+教育費+損害負担金

この中で、最も大きいのは、実は教育費です。通常、上司や先輩たちは自分の仕事をしながら新人を教育するわけです(OJT)。よって、上司や先輩たちは、教育している時間は自分の仕事ができないわけですから、その時間は新人のために使っているのです。

つまり、上司や先輩たちの給料の何割かが新人の教育費になるのです。しかも、直属の上司や先輩だけでなく、上司の上司、あるいは他部門の先輩などからも教育をうけます。したがって、通常、新人の給料よりも、教育費の方がはるかに高くなります。

また、損害負担金というのは、新人が会社の備品を壊したり、不良品を作ってしまったり、顧客に迷惑をかけてしまったりした場合に、会社が負担する損害金です。

一方で、新人がどのくらい仕事をして稼いだかを見積もると、最初の1、2年は計算できないほど微々たるものです。何しろ上司や先輩の仕事を多少手伝っている程度ですから。

以上のことから、新入社員が仕事をして稼いだ金額と会社が負担した金額とを比較すると、新入社員が一人前になるまでは会社が負担した金額の方がはるかに大きくなります。

そして、5年後に一人前になったと仮定すると、その時に本人が稼いだ金額(収入)と本人に支払った給料+法定福利費などの金額(支出)とが同じになると考えます。つまり、収入=支出となります。なお、この計算にはそれまでの教育費+損害負担金は含まれていません。

そして、6年目から教育を中止して独り立ちさせることにします。その後、それまでに会社が負担した教育費+損害負担金を、数年かけて会社に返済しなければなりません。仮に、3年ですべて返済できたとすると、入社後8年経って、ようやく会社にとってはプラスマイナスゼロになるわけです。

以下に、教育費等の返済計画のシミュレーション図を描いておきましたので参考にしてください。新入社員を5年間で一人前にするには3000万円から4000万円必要だと言われているので、直接人件費を5年間で3000万円と仮定します。また、新入社員の初任給等を200万円、入社5年後には400万円、8年後には500万円になると仮定しました。

すると、5年間で会社が支払う給料等が1500万円になるので、会社が負担する教育費等も5年間で1500万円となります。初年度は最も教育費がかかるので、初年度は400万円、その後毎年50万円ずつ減らして、5年後には200万円と仮定しました。

以下の図でお分かりのように、5年間の教育費等1500万円を3年間で返済するには、非常に大変なのです。つまり、斜線を引いた教育費等と返済金とが同じになるようにしなければなりません。この図から読み取れるのは、入社8年目には1300万円以上稼ぐようにならないと会社への返済はできないということです。

教育費の返済計画

入社後8年以上経って、自分を一人前にしてくれた教育費等をすべて返済している人ならば、堂々と、「仕事をしている分だけ給料を払え」と言えますが、そうでない人は会社にまだ借金をしている状況ですから、そんな偉そうなことはことは言えないはずです。まして、仕事中に趣味のサイトを見ているようでは、10年以上経っても会社に対する借金は返せないでしょう。

会社は以上のような見方をしていることを従業員は知っておく必要があります。会社は遊ぶところではなく仕事をして稼ぐところです。したがって、会社にとって最も困るのが、入社後、数年で退職されてしまうことです。早く一人前にしようと、年間数百万円かけて数年間教育したのに、すべて損失になってしまうからです。

そこで、そうならないようにする方法として、正社員としてではなく非正規社員として雇うのです。しかも、できるだけすぐに仕事ができる人を雇い、すぐに利益になるような仕事を担当させるです。そして、数年間、働きぶりを見てから、やる気と能力のある人を正社員にするのです。

また、最初から正社員として採用したとしても、必ず見習い期間を設けます。この期間に正社員として採用すべきか否かを判断するわけです。

Ⓒ 開発コンサルティング

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