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開発&コンサルティング

4-16 人事制度の見直し

1.人事制度の変遷

人事制度には基本的に、年功的人事制度、能力主義人事制度、実力・成果主義人事制度の3つがあります。まず、人事制度の変遷の概要について、筆者の経験を踏まえて説明します。その後、改めて要点を説明いたします。

年功的人事制度は、年功、すなわち勤続年数に応じて昇給・昇進を行う制度で、高度経済成長時代に適した人事制度でした。その特徴から中途入社する人も中途退社する人もあまりおりませんでした。中途退社して他の会社に転職すると、勤続年数ゼロとなるため給料は新入社員と同じになるだけでなく、その他の扱いについても新入社員と同等になってしまうからです。

この制度では、新入社員にはやっと生活できる程度の給料しか払いません。現在の貨幣価値で1ヶ月8万円程度でしょうか。よって、アパートを借りることも、外食することもできないので、自宅通勤者以外は、4人部屋、又は6人部屋の社員寮に入居して、朝食と夕食は社員寮の食堂で、昼食は社員食堂で食事をしていました。

したがって、若者は早く年を取りたい、早くアパートに引っ越して1人部屋に住みたい、とひたすら願っていたものです。ほとんどの大企業ではこの制度を採用していましたので、「寄らば大樹の陰」という思いの人たちが大企業に入社し、年功的人事制度のもとで働きました。

一方で、やる気のある若者は年功的人事制度を嫌って、能力主義人事制度、又は実力・成果主義人事制度の会社に入社しました。こういう制度を備えた会社は中堅企業に多かったです。

このような企業に就職し、実際に能力があり、また実力があった人は成果を出して、大企業に勤めている人よりも高い給料をもらっていました。現在の貨幣価値に換算すると、10万円~12万円でした。

よって、新入社員でも木造の安いアパートなら借りて1人で住むことができました。また、時々は外食をすることもできました。しかし、年を取るにしたがい、大企業に就職した人の方が次第に給料が高くなりました。

ちなみに、多くの中小企業では、当時は人事制度など存在しなかったと言っても良いでしょう。あっても形だけで、実際には社長や役員の好き嫌いで社員の処遇を決めていたのが実態でした。

さて、高度経済成長が終わると売上が減少すると共に、少子高齢化社会となりました。よって、若者の労働者が不足したため初任給が次第に高くなりました。その結果、大卒の初任給は現在と同じ18万円から20万円程度になりました。そのため、新入社員でも、また、どのような企業に入社しても、アパートを借りて住むこともできるし、外食もできるようになりました。

しかし、企業にとっては人件費が大きな負担となりました。そこで、日経連(日本経営者団体連盟)の主張もあって、多くの大企業では年功的人事制度から能力主義人事制度へ移行しました。その後、2度のオイルショックや円高不況を経て、能力主義人事制度がいっそう普及しました。

能力主義人事制度というのは、仕事をする能力、すなわち職務遂行能力に応じて資格等級を設け(職能資格制度)、これに基づき昇進・昇給、配置転換、能力開発などを行う制度です。能力主義人事制度は一見納得できる制度のようですが、その基となる職務遂行能力をどのように評価するかが問題だったのです。

また、職務遂行能力には、仕事ができる能力だけでなく、やる気(貢献意欲)と態度(職務規定を守るなど)が含まれています。そこで、これらについて人事評価を行いますが、そもそも人を正しく評価するのは難しいことです。企業によっては上司が評価するだけでなく、同僚や部下からも評価し総合的に判断していました。しかし、それでも本人が納得するとは限りません。

そこで、形は能力主義人事制度であっても、運用面では従来の年功的人事制度と同じになってしまう企業もありました。従業員が多く、1人ひとりを正しく評価するのが難しい大企業では、この傾向が強かったと思います。

そこで、能力主義人事制度ではなく、実力・成果主義人事制度を採用する企業もあったわけです。この制度は仕事ができる実力、及び実際の仕事の成果で評価するので、最も従業員が納得できる制度だからです。

要するに、プロスポーツ選手と同じなのです。そのため、リーマンショック後の景気後退期には、人件費を削減するために、この制度が急速に普及しました。ところが、この制度の欠点から次第に採用されなくなりました。

その欠点というのは、部下を育成しなくなることです。部下を育成すれば、その時間、自分の仕事ができなくなるだけでなく、部下が仕事ができるようになれば自分の仕事を部下に取られてしまうのです。つまり、部下を育成すればするほど自分の仕事がなくなり、また、自分の給料が減ってしまうのです。

また、その結果、技術やノウハウが個人に蓄積され、会社に蓄積されなくなってしまうのです。しかも、数年かけて技術やノウハウを習得して実力をつけた人は、より労働条件の良い他の会社に転職してしまうのです。

さて、改めて人事制度の変遷の要点を整理すると、

1969年に、日経連(日本経営者団体連盟)が欧米の人事管理を基に、『能力主義人事管理―その理論と実践』を発表し、能力主義人事制度を採用すべきであることを主張しました。しかし、わが国の人事制度は、1980年代まで、学歴や勤続年数などを重視する年功的人事制度が主流でした。

1973年に石油危機が発生し、高度経済成長が終わりました。よって、売上が減少しました。その後、少子高齢化社会や高学歴化社会が進展しました。そのため、若年労働者が不足し、初任給が上昇しました。また、従業員の平均年齢も高くなって人件費が高騰し経営を圧迫するようになりました。

そこで、能力主義人事制度が次第に普及することとなりました。また、2度のオイルショックや円高不況により、能力主義人事制度がいっそう普及しました。

しかし、日本に特有な能力主義人事制度の問題が指摘されるようになりました。それは、制度としては能力主義人事制度であっても、運用面では年功的人事制度になってしまうことです。その原因は、能力の評価が難しいからです。

1990年代前半にはバブルが崩壊し、平成不況が一段と深刻化しました。そこで、1995年に日経連が『新時代の日本的経営―挑戦すべき方向とその具体策』と題するレポートを発表し、その中で成果主義人事制度の考え方を提起しました。

そのため、多くの企業では成果主義人事制度への移行を進めました。ところが、成果主義人事制度にもいろいろな問題があり、元の人事制度に戻した企業も多く、現在では、どの人事制度にすべきか各社悩んでいる状態です。

そこで、人事制度を見直しするに当って、それぞれの人事制度の特徴(メリットとデメリット)を整理してみたいと思います。これらを参考にしたうえで、御社の人事制度の見直しを行なっていただきたいと思います。

また、筆者が考える今後の望ましい人事制度についても書いてみたいと思います。

2.年功的人事制度のメリットとデメリット

<概要>

終身雇用制、年功序列制、年功賃金制などを内容とする年功的人事制度は、わが国の工業化の進展に伴って発展したものです。つまり、重化学工業の発展過程で熟練労働者不足を補うために、新卒者を採用して長期に及ぶ企業内訓練によって養成する必要があったことが始まりです。

したがって、現在においても長期的な企業内訓練を必要とする企業固有の技術を習得するためには必要な制度なのです。

<メリット>

  1. 他の企業の労働者には代替できない、その企業固有の技術を習得することにより、人的資源とすることができます。したがって、景気後退期にも労働者を解雇せずにおくことによって、好景気の際に有効活用することができるのです。

  2. 先輩の熟練労働者から後輩へと、職場内訓練により技術の移転が容易にできるので、企業固有の技術を保存できます。長期雇用が保証されなければ、技術を後輩へ教えるようなことはしないでしょう。なぜなら、教えた後で用済みとなって解雇されるのなら絶対に教えないからです。また、長期的な訓練や経験によって新たな技術開発も可能となります。

  3. 日本の生産現場の労働生産性が高いのは、異常時の対応が適切で迅速であるからと言われています。これは、長期雇用により培われた経験だけでなく、労働者が連帯して対応するチーム活動によるものと考えられています。つまり、情報や技術の共有により臨機応変の対応ができるのです。

  4. 若いときには安い賃金で働かせ、年齢や勤続年数が高くなるにつれて徐々に昇進・昇給させることにより、長期間に渡って競争が行なわれるのです。このため、会社に対する忠誠心が高まり長期間労働意欲が衰えることがないのです。これは、労働者にとっても年齢が高くなるに従い生活費がかかるようになるので都合が良いのです。

  5. 労働者にとっての最大のメリットは、生活基盤が安定するので生涯計画が立てやすいということです。

<デメリット>

  1. 高度経済成長の終焉により売上が減少するとともに、少子高齢化社会、及び高学歴化社会の出現によって、人件費が高騰して経営を圧迫するようになりました。これが年功的人事制度における最大のデメリットです。

    つまり、企業が成長し続け、企業規模が拡大し続けることが終身雇用を前提とする年功的人事制度の基盤であったのですが、これが崩れてしまったのです。企業が永久に成長し続けることなどありえないことから、年功的人事制度は根本的に矛盾があったのです。

  2. 技術革新により既存技術に対する熟練労働者の価値がなくなり、新技術を備えた人が必要になったのです。ところが、新技術を備えた中途採用者は新入社員である以上、年功的人事制度の下では低賃金となり、家族を養うことさえできません。

  3. 企業固有の技術を習得しても転職や再就職に生かすことができません。

  4. 会社中心の生活になってしまうため、長時間労働を強いられるのです。

  5. 有能で、努力しても、若いというだけで低価値の仕事、いわゆる雑用ばかりさせられ、低賃金に甘んじなければなりません。

3.能力主義人事制度のメリットとデメリット

<概要>

能力主義人事制度は、仕事をする能力、すなわち職務遂行能力(職能)を中心とした人事制度です。多くの企業で採用されている、「トータル人事システム」は、能力主義人事制度に基づく職能資格制度を軸として、人事考課、賃金・処遇、配置・異動・昇格、能力開発といった多様な人事諸制度を連動させて、システム化したものです。

職能資格制度は職務遂行能力に応じた職能等級を定め、これを基準に人事考課を行い、処遇し、異動・昇格し、また育成するというものです。

<メリット>

  1. 人事制度において重要なことは、人事の基準が明確で、客観性があることですが、能力主義人事制度はこれを満たしているのです。そのため、人事考課、賃金・処遇、配置・異動・昇格、能力開発など人事に関するすべてについて従業員の納得が得られることが最大のメリットです。

  2. 職能資格制度では、昇格と昇進とは分離されて運用されています。つまり、賃金と地位とは無関係になっています。これにより、賃金を据え置いたまま昇進させたり、また、賃金は上昇するが地位は下がるというようなことが可能となります。

    つまり、組織の柔軟性と処遇の安定性が調和するのです。これはまた、ジョブ・ローテーションにより人材育成を図るのに適した制度でもあります。

  3. この制度の下では従業員に期待される能力要件や昇格基準が明確であり、能力が向上すれば賃金が上昇し、また、能力を向上させるための能力開発の制度も整っているのです。したがって、従業員の労働意欲を高めることができます。

  4. この制度は、職能資格制度を軸に、人事評価、能力開発、能力活用、賃金制度の4つが相互作用するように仕組まれています。このため、制度そのものが相乗効果を生み、運用するに従い、企業にとって、よりいっそう適した高度なシステムを作り上げることができるのです。

<デメリット>

  1. 職能資格制度における職務遂行能力は、予め決められた能力要件に基づく絶対的な能力であり、他の従業員との比較による相対的な能力ではありません。また、潜在的な能力であり、仕事で発揮された顕在的な能力ではないのです。

    このことから、職務遂行能力そのものが、どうしても年功的な能力になってしまい、運用も年功的人事制度と変わらないものになってしまうのです。

  2. そもそも、日本では仕事に必要な能力ではなく、人が持っている潜在的な能力を基準に人事制度が作られていることが間違いなのです。

    人事制度を設計する場合、良く知られていることですが、欧米では仕事が基準であり、日本では人が基準であるということです。つまり、欧米では仕事(職務)に必要な能力を持った人を採用して配置し、日本では人を採用してから、どの仕事に適しているかを決めるわけです。

  3. 職能資格制度は、能力開発⇒能力向上⇒賃金上昇、という連鎖が組み込まれていますが、急激な技術革新により能力開発が追いつかず、仕事の生産性が上がらず、結局、この連鎖が機能しなくなってしまうのです。

  4. 職能資格制度は予め決められた職能を基に作られるため、新しい技術を習得することができず、旧来の技術の習得やゼネラリストの育成しかできないのです。そのため、多様な能力や価値観を持った人材の育成には適さないのです。

    つまり、企業が新事業や新分野への進出に際し、必要とする人材の変化に対応できないのです。技術革新やグローバルな競争の激化により企業そのものが変化しなければならないのですが、そのためには多様な能力や多様な価値観を持った人材が必要です。ところが、そういった人材の育成ができないのです。

4.実力・成果主義人事制度のメリットとデメリット

<概要>

実力とは成果につながる「行動を伴う能力」のことです。この能力は潜在的な能力ではありません。行動を伴った顕在化した能力で、しかも成果(業績)を生み出す能力のことです。つまり、実力が原因で成果が結果という関係です。

よって、実力主義人事制度とは成果を生む原因を重視する人事制度であり、成果主義人事制度とは結果を重視する人事制度のことです。したがって、実力・成果主義人事制度というのは、結果とその原因との両方を重視する人事制度です。

この実力と成果との関係を理解するためには、例えば、スポーツを想定すれば良いと思います。普段の練習で成績が良ければ実力があると判断できますが、試合で負ければ成果はなかったということになります。逆に、普段成績が悪くても試合で勝てば成果があったということになります。

仕事においても同様で、日ごろ、ミスなく仕事をこなしている人が大事なときにミスしてしまう場合や、その逆の場合があります。このように、原因(実力)と結果(成果)とは必ずしも一致しないので、両方を重視しようというのが実力・成果主義人事制度です。

<メリット>

  1. 実力主義人事制度や成果主義人事制度では報酬も実力や成果で決定するので、企業業績と人件費とを連動させることができます。したがって、企業は人件費が高騰するのを防止することができます。

  2. 技術革新が急激に進展しても、即戦力となる専門的知識・経験を持った人材を採用することができます。

  3. 年齢や学歴に関係なく、実力、及び成果で評価されるので、従業員の労働意欲が向上します。例えば、年俸制による報酬などプロスポーツ選手と同じですので、特に実力がある若い人たちにとっては魅力があります。

<デメリット>

  1. 職種によっては客観的な実力・成果の評価ができないため、人事評価が上司の好き嫌いなど恣意的になりやすいのです。

  2. 従業員が目先の業績追求に走るため、企業は長期的な業績向上が図れなくなります。

  3. 上司が部下を育成して部下が仕事ができるようになると、上司の仕事を部下に取られることになります。また、上司の仕事が減れば上司は減給されることになります。このため、上司が部下を育成しなくなり、技術が個人に内在して企業に蓄積されません。

  4. 技術を習得した従業員は、労働条件の良い他の企業に転職してしまいます。このため、離職率が高くなります。

  5. 実力がない従業員や、実力があっても成果が出せない従業員は賃金が安くなり、そのうえ育成してもらえないので退職せざるを得なくなります。

  6. 以上のようなデメリットがあるため、実力・成果主義人事制度を取り入れた多くの企業では名ばかりの実力・成果主義となり、また、名ばかりの年俸制となって、実質的には年功的人事制度になってしまっています。

    そもそも日本の企業では、実力・成果によってあまり差を付けないことが慣習(企業風土)となっています。この原因は、共存・共栄を図ろうとする集団主義にあります。

5.筆者が考える今後の人事制度

以上、代表的な人事制度について見てきましたが、それぞれにメリットとデメリットがあり、どれが最も優れているということは言えません。一時、成果主義人事制度を採用する企業が増加しましたが、それにはいくつかの理由が考えられます。

  1. 既に書きましたが、バブルが崩壊し、平成不況が一段と深刻化したためです。このため、人件費をいっそう削減する必要があったからです。

  2. グローバリゼーションの進展による競争の激化です。競争が国内から世界へと広がったため、世界を相手に戦うためには、人材も世界中から探して来なければならないからです。

  3. ITを代表とする急激な技術革新です。必要な技術を持った人材を社内で育成するよりも、社外から採用した方が手っ取り早いからです。

  4. 労働者の価値観の変化です。1つの会社で長く働きたいとする若者が少なくなり、自分に適した仕事を見つけるため、いろいろな会社で働いてみたいという若者が増えているからです。

しかしながら、成果主義人事制度のデメリットのため修正を余儀なくされ、メリハリのない人事制度になってしまっている企業が多いのです。つまり、実力のある若者を採用するために、形だけは成果主義と言っていますが、実態は年功的人事制度になっているのです。

例えば、ボーナスだけが成果主義だとか、歩合給だけが成果主義だとかです。つまり、基本給は年功的人事制度なのです。要するに、人によって、あまり差がないようにしているのです。

そのため、今日まで人事制度改革としていろいろな改革がなされています。しかし、どの改革も中途半端で筆者は感心しません。それらの改革の内容を整理すると、以下の3つに集約できます。

  1. 能力主義人事制度における能力を欧米のコンピタンシーに変える。コンピタンシーとは、抽象的な職務遂行能力ではなく、具体的な、「特定の職務において継続的に高い成果を上げている人材が発揮している能力や思考・行動特性」のことです。

    短的に言えば、「特定の職務において成果を生む具体的な思考・行動特性」のことです。このコンピテンシーは実力主義人事制度における実力に良く似ています。しかし、コンピテンシーは「思考・行動特定」であり、やはり抽象的なのです。実力主義の実力の方がより具体的だと筆者は思います。

  2. 労働意欲を高めるために、欧米の動機づけ理論を基に目標管理制度を人事制度に組み込む。しかし、目標の決め方に問題があるため、かえって納得できない人事制度になってしまっています。

  3. 年功的人事制度、能力主義人事制度、成果主義人事性の3つの制度から、良い所だけを取り入れて人事制度を設定する。しかし、いわゆる「いいとこどり」を行っても納得できる人事制度になるわけではありません。

要するに、これらの改革を行っても、納得できる人事制度改革にはならず、また、従来通り、評価及び処遇にあまり差をつけない、メリハリのない人事制度になってしまうのです。要するに、日本的経営とされる集団主義に基づく共存共栄の人事制度となってしまうのです。

では、いったいどうすれば良いのでしょうか。もちろん、メリハリのある人事制度にすべきです。企業が世界で競争しているのに、企業で働く従業員は競争しないというのはどう考えてもおかしいのです。仕事ができる人もできない人も同じような処遇ではダメです。きちんと差を付けなければいけません。

なぜなら、従業員を競争させなければ、従業員の労働意欲が高くならず、企業が世界の競争に勝てるわけがないからです。

そのためには、まず、企業の目標は売上やシェアの拡大ではなく、利益の増大にすべきであるし、利益の増大に貢献した人には多くの報酬を払うべきです。つまり、多く稼いだ人にはその稼ぎに応じて報酬を払うべきです。また、多く稼ぐ人を育てたり、多く稼げる商品やサービスを開発したり、多く稼げる方法や仕組みを開発したりした人にはその度合に応じて報酬を払うべきです。

しかし、だからと言って、単純に、実力・成果主義人事制度にすべきだと言っているわけではありません。では、どのような人事制度にすべきかを考えてみましょう。

平成10年に経済審議会が雇用形態を次の3つに類型化しています。既に、20年以上経過しておりますが、現在でもこの雇用形態はあまり変わっておりませんので、これを参考に今後の人事制度を考えてみたいと思います。

  1. 企業内部での(企業固有の)専門能力を身につけた終身雇用型雇用者
  2. 外部労働市場で通用する専門能力を身につけた流動的雇用者
  3. 定型化された作業、事務を処理する非正規雇用者

上記の1の雇用者に対しては年功的人事制度が適しております。2の雇用者に対しては身につけた専門能力の種類によって、実力・成果主義人事制度、もしくは能力主義人事制度を採用するのが良いと思います。また、3の雇用者に対しては実力・成果主義人事制度が適しています。

つまり、雇用形態によって異なる人事制度を設けるのです。別の言い方をすると、専門能力や仕事の種類に応じて人事制度を設定する、いわゆる複合型の人事制度にするのです。本来、1つの人事制度ですべての仕事(職務)を網羅することなどできないはずです。また、本来、仕事(職務)を基準に人事制度を構築すべきであって、人を基準に人事制度を構築するのではありません。

なぜなら、本来は、どの人事制度も人を基準にした人事制度ではなく、仕事を基準にした人事制度だからです。

例えば、年功的人事制度は、本来は、長期間修行しなければ習得できない企業固有の技術を習得させるために設けた人事制度なのです。また、能力主義人事制度は仕事ができる能力を基準にした人事制度であり、実力・成果主義人事制度は、仕事ができる実力、及び仕事を行った成果、を基準にした人事制度なのです。

つまり、いずれの人事制度も、本来、学歴や年齢などに関係なく、仕事を基準にした人事制度なのです。この点を決して忘れてはいけません。

ところで、外部労働市場で通用する専門能力とは、多くの企業で必要とする共通の専門能力と捉えることができます。いろいろな仕事がありますが、大きく分けて2つあると思います。1つは付加価値を高める仕事であり、もう1つは付加価値が減るのを防ぐ仕事です。

要するに、利益を増やすための仕事と利益が減るのを防ぐための仕事です。別の言い方をすると、攻めの仕事と守りの仕事です。戦いの前線の仕事と後方支援の仕事と捉えることもできます。そもそも、企業の目的は付加価値を高めることであり、利益の増大にあるのです。したがって、人事制度もこの目的に沿って設計すべきです。

なお、企業を存続させるために必要な、人事、総務、経理などの仕事も、付加価値が減るのを防ぐ仕事と考えます。

つまり、専門能力の種類と仕事(職務)の目的によって、どの人事制度にするかを決定します。よって、仕事の目的を明確にすることが前提です。多くの企業では仕事の目的が明確でないので、いろいろな問題が生じてしまうのです。なお、仕事の目的、及び仕事の成果について詳しくは、「第3章 価値のないムダな業務の廃止・削減」で既に説明いたしました。

≪筆者が考える今後の人事制度≫
能力\目的付加価値を高める仕事付加価値が減るのを防ぐ仕事
企業固有能力
(ストック型)
年功的人事制度
企業共通能力
(フロー型)
実力・成果主義人事制度
(仕入・購買、製造、販売、改善・開発、戦略策定など)
能力主義人事制度
(計画立案、管理、人事、経理、総務など)

仕入・購買、製造、販売などの直接作業は、文字通り、直接、付加価値を高める仕事です。商品を仕入れ、また、材料や部品を購買して製品を製造し、顧客に販売して付加価値を高める仕事です。つまり、攻めの仕事です。

経営管理部門(ホワイトカラー)が行う仕事のうち、改善や開発の仕事は付加価値を高める仕事です。また、経営戦略をはじめとする各種戦略の策定も付加価値を高める仕事です。つまり、これらの仕事は攻めの仕事です。

その一方で、ホワイトカラーが行う仕事のうち、経営計画をはじめとする各種計画の立案は各種戦略の実行計画です。すでに策定された戦略をきちんと実行するための計画なのです。

また、計画立案を含めた管理業務は、計画どおり実行するために管理する仕事です。したがって、これらの仕事は、付加価値を高める仕事ではなく、付加価値が減るのを防ぐ仕事と捉えることができます。つまり、守りの仕事なのです。

したがって、今後はどの企業でも、この3つの人事制度を備え、専門能力と仕事(職務)の目的に応じて適用すれば良いと筆者は考えます。その際に重要なのは、あくまで仕事(職務)を基準に制度設計を行い、かつ運用することです。日本では昔から人を基準に人事制度を設計するので、運用面でおかしくなってしまうのです。

さて、新入社員は入社する時に、希望する仕事を決めて、自分のキャリアアップ計画に基づき能力開発を行っていくのです。この時に、最初に決めることは、企業固有の専門能力を身に着け、できるだけ長くその企業にいるストック型か、いろいろな企業で通用する専門能力を身に着け、企業を渡り歩くフロー型かです。

また、学校を卒業したばかりでよく分からない場合は、どの仕事でも、あるいはどの人事制度でも、選択することができます。しかし、例えば、仕事としてIT技術を選択した場合、ワープロや表計算ができる程度のレベルでは、どの人事制度を選択しても報酬にあまり変わりはありません。

入社後、IT技術の専門性を高め、企業固有のIT技術を習得すれば、年功的人事制度を選択することができます。また、IT技術を管理に活用できるレベルになれば、能力主義人事制度を選択することができます。また、システム開発ができるレベルになれば、実力・成果主義人事制度を選択することができます。

また、例えば、販売を担当していた人が、販売管理や顧客管理ができるようになれば、実力・成果主義から能力主義へと転換できます。また、仕入・購買管理を行っていた人が、VE技術を習得して、より安く仕入・購買できるようになれば、能力主義から実力・成果主義に転換することもできます。

さらに、2種類の仕事を行っている人は2つの人事制度を同時に選択することができます。例えば、販売と販売管理とを行っていれば、実力・成果主義と能力主義の両方を選択できます。

このように、本人の希望によって、また、本人の努力によって、どの人事制度でも選択できますし、同時に2つの人事制度を選択することもできます。したがって、企業はこのようなことが自由にできるように制度設計をしておかなければなりません。

実は、仕事(職務)を基準に人事制度を設計すれば、以上のことが容易にできるのです。人を基準に人事制度を設計してしまうから以上のような柔軟な制度設計ができないのです。なぜなら、人を基準に設計すれば、どうしても全社一律の人事制度になってしまうからです。そうなれば、結局、どのような人事制度を設計しても、どの企業にも適さず、また、どの人事制度にも問題が生じてしまうのです。

このことは、例えて言えば、料理をする包丁に似ていると思います。三徳包丁は肉も魚も野菜も切ることができますが、どれも上手には切れないのです。やはり、肉を切る時には洋刀が適していますし、魚を切る時には出刃包丁や刺身包丁、野菜を切る時には菜切り包丁が適しているのです。

そもそも、人事制度は従業員の労働意欲を高めて企業業績を上げるためにあるのです。したがって、従業員が働きやすいように、また、仕事を通じて労働意欲が高くなるように制度設計を行う必要があります。このためには、人を基準に制度設計するのではなく、仕事を基準に制度設計すべきなのです。

したがって、また、労働意欲を高めるための動機づけと人事制度とは分離すべきなのです。つまり、人事制度の中に動機づけのための目標管理制度などを組み込んではいけないのです。

さて、従業員は技術革新により、保有する技術が陳腐化して役に立たなくなることがあるので、常に、将来を見据えた複数の専門能力(仕事)を身に着ける必要があります。つまり、マルチ人間を目指すべきです。

実は、このことは企業にとっても同様です。他社との差別化を図るために必要な企業固有の技術、すなわち核となる能力(コア・コンピタンス)が技術革新によって役に立たなくなれば、新たにコア・コンピタンスを開発しなければなりません。したがって、常に、複数のコア・コンピタンスを保有することが必要なのです。

ところで、日本の会社の経営者のほとんどが自社出身者、又は関連会社出身者ですので、どうしても井の中の蛙になり、経営環境が大きく変わった場合に適切な経営戦略が策定できない恐れがあります。

よって、外部労働市場を通じて、異なる業界から実力ある専門経営者を雇った方が適切な経営戦略が策定できると思います。

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