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開発&コンサルティング

第4章 イノベーションのための経営の骨組みの再構築

4-1 経営者の意識を変えるには

1.経営者に必要な意識とは

意識改革、意識改革とよく言いますが、意識改革とは何でしょうか。まず、意識とは何でしょうか。広辞苑によれば、「意識とは認識し、思考する心の働き」です。

ちなみに、ここで言う意識は、「この患者は意識がない」と言うような医学的な意味ではありません。

では、経営者に必要な意識とは何でしょうか。経営者は常に、「経営環境の変化に機敏に対応する」という意識を持っていなければなりません。なぜなら、経営環境が変化すればそれに応じて経営の方法を変える必要があるからです。また、企業とは、一口で言えば環境対応業だからです。

経営者は常に経営環境の変化に機敏に対応して経営の方法を変え、企業の存続・発展を図らなければなりません。

そこで、改めて、広辞苑の定義に従って、経営者が持つべき意識を定義すると、「経営環境の変化を認識し、どのように対応すべきかを思考する心の働き」となります。

では、改革とは何でしょうか。広辞苑によれば、「改革とは改め変えること」です。よって、意識改革とは簡単に言えば、意識を変えることです。

例えば、経営環境が変化し、業績が悪化しているにもかかわらず、それは「景気が悪いからだ」とか「取引先からの注文が減ったからだ」などと言って何も手を打たない経営者がいます。業績が悪化しているにもかかわらず何も手を打たないことを「放漫経営」と言います。

ちなみに、企業が倒産する主な原因は、「放漫経営」であり、さらにその原因は、「おごり」と「甘え」です。これは倒産した多くの企業の歴史が証明しています。「我が社のような優良企業が倒産するはずがない」と思うのが「おごり」であり、「これだけ頑張っているのだから倒産はしないだろう」と思うのが「甘え」です。

経営者に必要な意識は、経営環境の変化に対する「危機意識」と「機会意識」です。つまり、環境の変化によって業績が悪化するかもしれないという危機意識と、逆に、環境の変化によってビジネスチャンスが生まれかもしれないという機会意識です。このうち特に重要なのが危機意識です。

例えば、競合他社が技術革新を行ったり、戦略を変化させたり、より有利な海外へ工場移転したり、また、顧客のニーズが変化したり、規制緩和が行われたりしても、それらに対応せず、何も手を打たなければ業績は悪くなるばかりです。

ところで、景気が悪くなっても業績を伸ばしている企業はたくさんあります。景気が悪くなると、喜ぶ経営者もいます。なぜなら、競合他社が少なくなり、自社の売上、及び利益が増大するからです。これは経営者の意識の違いです。

さて、業務改革の目的は企業によっていろいろですが、さらに上位の目的はどの企業も同じです。それは、経営環境の変化に対応するためです。例えば、「中期経営計画を達成する」を業務改革の目的とすれば、以下のようにつながります。

経営環境の変化に対応する⇔経営戦略を策定する⇔中期経営計画を立案する⇔中期経営計画を達成する⇔業務改革を実施する

なぜなら、経営環境の変化に対応するために、経営戦略を策定して中期経営計画を立案しますが、中期経営計画には新たに実施する計画を盛り込む必要があるからです。つまり、強化業務や新規業務、あるいは新規事業などを計画するのです。

ちなみに、業務改革の目的は、「中期経営計画の達成」の他に、「意思決定と実行の迅速化」「顧客満足と従業員満足の向上」などがあります。

経営環境の変化に対応するために何をするかは企業によっていろいろです。経営環境の変化がどのような変化なのか、その変化に対応するために我が社は何をしなければならないのかが、企業のよって異なるからです。

経営環境の変化に対応するための具体的な手順としては、まず、経営環境の分析を行い、経営戦略を策定します。そして、経営戦略を実行するための事業領域(ドメイン)を設定します。事業領域とは戦う領域のことです。当然、勝ち目のある領域を設定します。勝ち目のない領域では戦わないのです。

そして、策定した経営戦略と事業領域の基で、中期経営計画と経営計画を立案します。したがって、中期経営計画と経営計画は経営戦略の実行計画になります。そして、経営計画を実施するために業務の再編成を行います。次に、業務を確実に実施して戦いに勝つために組織を再編成します。そして、従業員の戦う意欲を高めるために人事制度を見直します。最後に、仕事に適した人を配置します。

経営環境の分析⇒経営戦略の策定⇒事業領域の設定⇒中期経営計画と経営計画の立案⇒業務の再編成⇒組織の再編成⇒人事制度の見直し⇒人の再配置(人事異動)

強化業務、新規業務、新規事業などを盛り込んだ中期経営計画を実施するためには、新たに時間と人が必要ですから、業務効率化活動を実施します。つまり、現状業務を見直し、ムダな業務を廃止・削減し、時間と人を社内から生み出すのです。そして業務の再編成と人事異動を行うのです。これらによって、中期経営計画が確実に達成できるようにするのです。これが業務改革活動です。

要するに、経営環境の変化に対応するためには、業務改革を行わなければならないのです。なぜなら、経営環境が変化すると、これまで行って来た業務が不要になり、新たに必要な業務が生まれるからです。よって、業務の入れ替えが必要なのです。これが業務改革です。

ちなみに、有能な経営者は、経営環境に機敏に対応すると言うよりも、むしろ、経営環境を自ら変化させるために業務改革を実施するのです。例えば、業務改革を通じてイノベーションを実施し、経営環境を自社に有利な状況に変えてしまうのです。

2.経営者の意識を変えるのは難しい

経営者が経営環境の変化に対応しなければ、業績は悪くなるばかりです。よって、経営者の意識を変えることが必要です。しかし、経営者の意識を変えるのは容易ではありません。

経営環境が変われば、通常、経営戦略、事業領域、中期経営計画、組織、人事制度などを変えます。しかし、これらがかなり面倒なのです。よって、経営者の意識が変わらなければ、これらを変えようとしないのです。そのため、ムダな業務や環境に合わない事業をいつまでも実施し、新規業務や新規事業に取り組もうとしないのです。よって、業績が悪化してしまうのです。

さて、新規業務や新規事業に取り組むには、経営者だけでなく全従業員の業務に対する意識を変える必要があります。業務に対する意識とは、業務に対する「考え方や価値観」です。

よって、業務効率化や業務改革を行う時には、どの企業でも、経営者が常に意識改革、意識改革と言っています。しかし、意識改革はなかなかできません。なぜでしょうか? その理由は、そもそも経営者の意識が変らないからです。意識改革、意識改革と叫んでいる経営者自身が意識改革しないからです。

実際に、経営者自身が意識を変えようとしないで、従業員に対して意識改革しろ、意識改革しろと声高に叫んでいる企業は非常に多いです。そういう企業の従業員は、意識改革しなければならないのは、むしろ経営者であることを知っています。

従業員がなかなか意識改革できないことを嘆いている経営者を見ると、筆者は「経営者の意識を変えるよりも、経営者を変えた方がいいのではないか」と思います。

実は、大企業の経営者の意識を変えるのは難しくありません。なぜなら、大企業の経営者は業務効率化や業務改革の重要性を良く理解しているからです。また、大企業の経営者の多くは雇われ経営者であるため、業績を上げなければ降格される恐れがあるからです。このため、経営者が率先して活動に参加し、業務の見直し・再構築を積極的に行います。

それに反して、中小企業の経営者の意識を変えるのは非常に難しいです。なぜなら、中小企業の経営者は、業務効率化や業務改革の重要性をあまり理解していないうえ、通常、オーナー経営者ですから、業績が悪くなっても降格される恐れはないからです。

「会社は俺が作ったものだから俺のものだ。会社をどうしようと俺の勝手だ、俺の意識を変えるなどとんでもない」と考えるのが中小企業の経営者なのです。

3.経営者の意識を変える方法

意識改革の方法が書かれている本や雑誌はあまり見当たりません。方法が分からないから、お互いに掛け声だけで終わってしまうのです。いわゆる「火の用心」と同じなのです。つまり、「火の用心、火の用心」と叫んでいても、具体的にどうすれば良いかが分からなければ火の用心はできません。

そこで、多くの企業で業務効率化や業務改革のコンサルティングを行ってきた経験を基に、経営者の意識改革の方法について書いてみようと思います。

(1)ベンチマーキングでは意識を変えることはできない。

まず、通常、行われている意識改革の方法について書くことにします。その代表例がベンチマーキングです。つまり、先進企業のベストプラクティス(成功事例)をベンチマーク(目標)として努力しようとする方法です。

いわゆる、「追いつけ、追い越せ」の精神で、先進企業に追いつこうと努力することにより、意識が変わるという考え方です。しかし、この方法では意識改革はできません。なぜなら、他社の成功事例をマネすることはできないからです。

その理由は、企業によって経営能力が異なるから、経営資源が異なるから、組織風土(企業慣習)が異なるから、などですが、そもそも業務に対する意識(考え方や価値観)が異なるからです。

ちなみに、製品のコスト削減や製品開発などの技術面では、先進企業の成功事例をマネすることはできます。それはその技術が目に見えるからです。日本は、かつて欧米の先進企業に追い付け、追い越せで頑張って技術力を高めたのです。

しかし、業務の見直し・再構築については、他社事例をマネしようとしてもできません。参考にはなりますが、マネはできないのです。それは、先進企業の業務に対する意識(考え方や価値観)が分からないからです。なぜなら、目に見えないからです。

筆者が、業務の見直し・再構築については他社の成功事例がマネできないことを初めて知ったのは、ある自動車メーカーの100%子会社で業務効率化、及び業務改革のコンサルティングを行ったときです。

この子会社の社長は、親会社のトップが替わらなければダメだと言っていたのですが、実際に筆者から見てもそうでした。なぜなら、親会社にいろいろな業務の改善・効率化の提案をしても、すべて拒否されたからです。しかも、検討した形跡すらありませんでした。

その後、多くの企業で同じような経験を何度もしました。どんなに良い成功事例があっても、経営者の意識が変らなければ参考にもしないのです。そのため、業務効率化や業務改革を行うには、まず、経営者の意識を変えなければなりません。

業務効率化や業務改革のコンサルティングを行う際に、筆者は多くの先進企業の事例を紹介します。それは、先進企業のマネをしてもらうためではなく、動機付けのためです。

実際に、業務効率化や業務改革を行う場合には、その考え方、進め方などを理解した上で、その企業に合った方法を創意工夫しなければできないのです。なぜなら、その企業の経営能力、経営資源、組織風土などに適した方法でなければ実行できないからです。

(2)意識のあるべき姿を明確にしなければ意識を変えることはできない。

では、経営者の意識を変えるにはどうすれば良いでしょうか。企業というものは、経営者の能力以上には成長・発展することはできません。したがって、コンサルタントの役割の1つは経営者の能力を高めるために、経営者の意識を変える方法を提案・助言することです。そこで、経営者の意識を変える方法について書くことにします。

業務改革活動において意識を変えるというのは、業務に対する考え方や価値観を変えることです。しかし、通常、現在の意識の状態(As is)から、どのような意識の状態(To be)に変えれば良いのかが分からないのです。よって、意識のあるべき姿(状態)を明確にすれば良いのです。これを示さなければ意識を変えることはできません。

では、意識のあるべき姿とはどのような姿(状態)を言うのでしょうか。このことを明らかにするために、経営環境の変化を認識する方法と、経営環境の変化にどのように対応すべきかの方法について書いてみようと思います。

≪経営環境の変化を認識する方法≫

まず、経営環境の変化を認識する方法ですが、常に、自社の売上、及び利益の変化(増減)に注目し、なぜ、そうなったのかの原因を徹底的に追究することです。

そうすれば、経営環境の変化と売上、及び利益の変化との相関関係が見えてきます。この原因追究を常に行っていれば、経営環境が変化した時に、売上と利益がどのように変化するかが分かります。したがって、逆に、予測もある程度できるようになります。

経営環境には企業外部の環境と企業内部の環境とがありますので、それぞれ別に原因を追究します。原因は数えきれないほどたくさんありますので、原因追究を行う時に役に立つのが、多くの他社事例です。環境の変化によって、他社がどのように業績が悪化したのか、あるいはどのようにして業績悪化を免れたのかなどを学ぶことです。

歴史は繰り返すと言われています。他社で起こったことが自社でも起こる可能性があるのです。ちなみに、多くの経営者は戦国武将の戦い方や孫子の兵法などを経営の参考にする人がいますが、筆者は実際の企業の戦い方を学んだ方がはるかに役に立つと思います。要するに、多くの企業の歴史(経営史、経営戦略史)を学ぶ方が実践に役に立つのです。

例えば、昔、紡績業として名を成した鐘淵紡績株式会社は、現在ではカネボー化粧品、クラシエ、カネカなどに変っています。また、かつてフイルムのトップメーカーであった富士フイルムは現在はフイルムの生産を大幅に縮小し、化粧品などを製造・販売しています。日本たばこ産業もタバコの生産を大幅に縮小し、多くの新規事業に取り組んでいます。

また、かつて、GM(ジェネラルモーターズ)社がどのようにして世界一の企業になったのか、トヨタ自動車がGMやフォードに勝つためにどのような戦略を策定したのかなどを学ぶのです。このような、産業レベルや事業レベルだけでなく、商品レベルであっても、売上や利益が変化すれば、必ずその原因があるので、それを見極めることが大切です。そのためには、多くの他社の戦略を学ぶことです。

これらの企業は、外国への技術移転、技術革新、消費者ニーズの変化、競合他社の戦略の変更などに対応した結果、現在のようになっているのです。したがって、多くの他社の戦略を学べば環境の変化を認識することはどういうことかが良く分かります。よって、環境の変化を機敏に捕えることができるようになります。

≪経営環境の変化に対応する方法≫

さて、次に、経営環境の変化にどのように対応するかですが、それは、何か重大なことが起こった時にどのように対応するかを考えてみれば分かります。

例えば、大地震が起こった時にどのように対応するかです。このためには事前に準備をしておき、さらに訓練をしておくことです。単に頭で考えただけではダメです。また、準備をしただけではダメです。実際に行動できるとは限らないからです。

つまり、いざという時に、頭と体が自然に動くようにしておくのです。こうすることによって、あるべき意識の状態にすることができるのです。すなわち、意識を変えることができるのです。これが意識改革の方法です。

通常、何か重大なことをしようとする時には、その準備として、その目的、考え方、進め方、方法の4つをあらかじめ決めておきます。また、訓練のための資料や道具なども準備しておきます。そして、訓練を行います。したがって、経営環境の変化に対応するために業務効率化や業務改革を行うときにも、あらかじめ、その目的、考え方、進め方、方法を決めて、理解して、訓練をしておけば良いのです。

訓練は、年に1回行います。防災訓練と同じです。毎年、売上や利益を増やすために業務効率化や業務改革の訓練を行うのです。したがって、訓練と言っても実践でもあります。そうすれば、経営環境が変化した時にもすぐに業務効率化や業務改革を行うことができます。

経営環境は突然変化する時もあれば、徐々に変化する時もあります。突然変化する時はそう頻繁にあるわけではありません。例えば、技術革新、規制緩和、法律改正などの場合は突然変化します。

一方で、他国の工業化の進展による技術の国家移転、顧客ニーズの変化、景気変動などは通常、徐々に変化します。徐々に変化するので変化を捕えるのはかえって難しいです。

そこで、毎年、訓練をしておき、徐々に変化が起こっても対応できるようにしておくのです。経営環境は常に変化しているので、訓練とは言っても、実践でもあります。いわゆる、ゆでガエルにならないようにしておくのです。また、こうして毎年行えば、突然大きな変化が起こっても対応できます。

ところで、企業は毎年、経営計画を立案して実施します。しかし、実は、単に、売上や利益の目標を決めて、この数値目標を各部門に割り当てるだけという企業が多いです。つまり、ノルマを与えるだけという企業が多いのです。このような方法では、計画が達成できるわけがありません。計画を達成するためにはどうすれば良いかを経営者と各部門長とでよく考える必要があります。

その際には、経営戦略、事業領域、中期経営計画、経営計画、経営組織、人事制度、部門(機能)別戦略、業務などを見直します。

最近では経営環境の変化が激しいので、毎年、経営環境の変化への対応訓練(実践)を行います。業務効率化活動や業務改革活動は経営管理部門(ホワイトカラー)の全員が参加しますので、全員が訓練(実践)を行うことになります。

そこで、訓練事項(実施事項)をプログラム化しておく必要があります。つまり、実施事項ごとに、その目的、考え方、進め方、方法を明確にしておくのです。

そして、これら1つひとつを理解し、実行するのです。このためには時間がかかります。大企業では8ヶ月から1年ぐらい、中小企業でも6ヶ月はかかります。

なぜなら、大企業は人数が多いので、ホワイトカラー全員の意識を変えるには、時間がかかるからです。言ってみれば、大きな川の流れを変えるようなものだからです。このためには、何よりもまず、従業員をリードする経営者の意識を変えなければ業務効率化や業務改革はできません。したがって、必ず経営者が参加して活動を推進します。

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