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開発&コンサルティング

3-7 市場(顧客)志向による内部管理業務の廃止・削減

1.内部管理業務とは攻めの業務ではなく守りの業務

経営管理部門(ホワイトカラー)の業務(デスクワーク)は大きく、3つに分けることができます。1つは、企業の存続に必要な基本業務(Basic Job)で、経理、人事、総務などの業務です。つまり、費用の支払いや売上の回収、決算書の作成、従業員の採用・配置、各種法的手続きなどです。

これら基本業務以外の業務は全て経営管理業務です。経営管理業務をさらに2つに分けると、1つは、企業外部に向けた、売上や利益を増やすために行う業務(Outside Job)で、各種戦略の立案、市場開拓、顧客開拓、新商品開発、新事業開発などの業務です。もう1つは企業内部の管理業務(Inside Job)で、各種計画の立案、予算編成や予算統制、部下の教育指導、ミス防止、不正防止などの業務です。

企業の外部に向けた業務は売上や利益を増やすための攻撃(攻め)の業務であり、戦いの前線の業務です。企業の内部に向けた業務は売上や利益が減らないようするための防御(守り)の業務であり、後方支援業務です。

企業の外部に向けた業務か内部に向けた業務かの区分は、業務の相手で判断できますし、攻めの業務か守りの業務かは業務の目的によって判断できます。業務の相手が顧客や取引先であれば外部となり、経営者や従業員であれば内部となります。

例えば、経営戦略の策定は企業の外部に向けた攻めの業務ですが、策定された経営戦略を実施するための中期経営計画や経営計画の立案は企業内部に向けた守りの業務となります。その他のいろいろな計画業務も守りの業務です。また、業務目的が主にミス防止、不正防止などの「〇〇を防ぐ」という業務は守りの業務です。業務機能で言えば、チェックする、照合する、点検する、確認する、修正する、見直すなどです。

重要なのは、業務の区別です。例えば、経理部門が売上の回収時期を早めるために販売先と交渉する業務は、売上や利益を増やすための攻めの業務ですが、経理担当者の計算ミスを防ぐために行うチェック業務は売上や利益が減るのを防ぐ守りの業務です。つまり、同じ部門でも基本業務、攻めの業務、守りの業務の3種類があるのです。

したがって、個別業務(職務)ごとに判断します。大分類業務、中分類業務、小分類業務などの業務分類では判断できません。1つの業務分類の中に基本業務、攻めの業務、守りの業務などが含まれているからです。

例えば、品質管理業務の中には品質を良くするための攻めの職務と不良を防止するための守りの職務があります。この2つは似て非なるものであり、業務目的が異なり、業務ベクトル(業務の方向)も異なります。

原価管理業務の中にも原価を低減するための業務と原価を統制(原価アップを防止)するための業務があり、納期管理業務の中にも納期を短縮するための業務と納期遅延を防止するための業務があります。前者が攻めの業務であり、後者が守りの業務です。

別の言い方をすると、新たな知識や知恵(アイデア)を必要とする業務かこれまでに培った知識や経験でできる業務かの違いでもあります。

企業外部に向けた業務企業内部に向けた業務
売上や利益を増やすための業務売上や利益を減らさないための業務
攻めの業務守りの業務
戦いの前線業務戦いの後方支援業務
新たな知識や知恵を必要とする業務これまで培った知識や経験でできる業務

したがって、重要なのは、いかに守りの業務を減らして攻めの業務を増やすかです。なお、企業が存続するために必要な基本業務を、あえて、攻めの業務か守りの業務かに分ければ、守りの業務になります。

2.内部管理業務(内臓脂肪)が多くなる理由

内部管理業務は、人の体で言えば内臓脂肪と同じようなもので、多すぎてはいけないのです。実は、内部管理業務が多くなるのは、昔、大企業病と呼ばれた病気の正体です。

企業が成長するに従い、企業の外部、つまり市場(顧客、取引先など)に向けて、売上や利益を増やすための業務よりも、企業の内部に向けて、売上や利益を減らさないように管理する内部管理業務の方が多くなるのです。

つまり、従業員のエネルギーや経営資源が企業の外部に向けて使われるよりも、企業の内部に向けて使われるようになってしまうのです。企業が大きくなればなるほど、この傾向が強くなります。この病気にかかった企業は経営環境の変化に迅速に対応できなくなるため、経営環境が変化すると業績が急速に悪化してしまうのです。

内部管理業務が多くなる理由は、

  1. 売上や利益を増やすための業務よりも、内部管理業務の方が楽にでき、失敗がないからです。なぜなら、これまでに培った知識や経験でできるからです。

  2. 売上や利益を増やすための業務はリスクが高いので、内部管理業務を行ってリスクを避けようとするからです。つまり、挑戦して失敗するよりも、挑戦しないで失敗を避けようとするからです。

  3. 内部管理業務は、部下の仕事をチェックしたり、部下の指導をしたりすることが多いので、優越感を感じられるからです。

  4. ミスや不正をして責任を追及されたくないので、ミス防止や不正防止に力を入れるからです。なぜなら、内部管理業務はミス防止や不正防止のための業務が多いからです。

最近では中小企業でも大企業病にかかっている企業が多いです。実際にクライアント企業で調べてみると、中小企業でも内部管理業務の割合が全業務量の60%以上を占める企業が多いです。つまり、基本業務+内部管理業務が80%以上となっており、攻めの業務が20%以下なのです。中には、攻めの業務が5%以下と言う企業もありました。

3.内部管理業務が多い企業は衰退する。

古い調査ですが、日経ビジネス社の調査によると、大企業約400社の営業部門の業務時間の平均割合を見ると、約2割が商談、約3割が移動、残りの約5割が報告書の作成など内部管理業務だということです。このように、直接部門である営業部門でさえ内部管理業務が多くなっています。

まして、経営管理部門は言うまでもなく内部管理業務が多くなるのです。弊社のクライアントのうち、大企業だけを調べてみると、経営管理部門の業務のうち、基本業務を除いて、売上や利益を増やすための攻めの業務と売上や利益が減らないようにするための守りの業務に分けてみると、多くの企業では攻めの業務が10%以下で、守りの業務が90%以上なのです。

攻めの業務よりも、守りの業務の方が圧倒的に多いわけですから、当然のことながら、会社はしだいに衰退するのです。90%以上が守りの業務だということは、経営資源をかなりムダに使っているということになります。つまり、コスト高になっているのです。90%のうちの10%でも攻めの業務に変えれば業績向上は間違いなしです。

4.内部管理業務が多い企業は従業員を信用していない。

「従業員はミスをするものだ」「従業員は悪いことをするものだ」と考えている企業は、ミス防止や不正防止のためのチェック業務が多くなります。また、チェック業務が多ければ、チェックされる従業員は会社が、「従業員はミスをするものだ、悪いことをするものだ」と考えていることが分かるので、労働意欲もわきませんし、会社に対する忠誠心や貢献意欲もわきません。

つまり、ミス防止や不正防止のためのチェック業務が多いのは会社が従業員を信用していない証拠であり、労働意欲をそぐ結果になります。会社が従業員を信用しなければ、従業員も会社を信用しなくなるのです。よって、このような会社の業績は決して良くはなりません。

内部管理業務の中で最も業務量(業務時間)が多いのは、通常、予算編成と予算統制、それに各種計画業務です。多くの企業で、これらに多くの時間(コスト)をかけています。従業員を信用していない企業ほど予算編成や予算統制に時間(コスト)を多くかけて従業員を縛りつけているのです。このために、チェック業務が多くなるのです。

本来、予算を編成した後は、各部門で、あるいは各自で統制すべきであり、会社として統制する必要はないはずです。そもそも予算編成の目的は、経営計画を確実に実行するためですが、たとえ予算オーバーになっても多くの売上や利益が確保できればその方がむしろ良いわけです。つまり、予算に縛られると、業績向上のチャンスを逃すことにもなるわけです。要するに、臨機応変に攻めの業務を行うことができなくなってしまうのです。

しかしながら、予算が余るからと言って、他の業務に使ってしまうのはダメです。例えば、経営計画に新規業務が盛り込まれていても、まだ実施する時期でなければ予算が余ります。余ったからと言って、予算が足りない業務に勝手に使ってしまうのはいけません。

予算というものはあくまで計画であり、予算の実行は状況により変化します。予算通り実行することが重要なのではありません。業務の目的を果たすために予算を使うのが重要なのです。よって、予算統制は各部門や各自で行うべきだと思います。

既に書きましたが、予算編成そのものにも問題があります。そもそも予算は、一旦、編成したら修正するものではありません。多くの企業では予算は修正するのが当たり前になっています。ひどい場合には、何度も修正して、結果的に予算を実績に合わせてしまっているのです。それで、「予算どおりうまく行きました」などと言っています。

これでは何のための予算だか分かりません。予算は計画ですから、実績に合わせてしまっては計画を立てる意味がないのです。経営環境の急激な変化などで、どうしても補正が必要なら、改めて補正予算を組むべきです。

企業の予算編成と言うのは、子供の夏休みの学習計画とよく似ています。通常、最初に立てた学習計画どおりには実施できないので、何度も計画を修正するのです。すると、結局、実態に合わせた計画になってしまいます。よって、計画を修正する意味がなくなります。そこで、子供は計画を修正するのを止めます。しかし、企業は予算の修正を止めません。形式を重視するからです。

予算の修正に多くの時間をかけている企業は、業績は良くならないでしょう。なぜなら、業績を良くするための予算編成や予算統制ではなく、実績との数字合わせのための予算編成や予算統制になっているからです。

ところで、年度末の3月が近づくと、街ではあちらこちらで工事が始まります。これはお役所が年度内に予算を使い切ってしまおうとするからです。もし予算が余ると翌年の予算が削られてしまうからです。これと同じことを行っている企業があります。お役所が行うような、バカなことは止めましょう。

ちなみに、予算編成や予算統制など、予算に関する管理業務は多くの企業では全業務量の20%以上となっています。よって、全業務量の10%以下にすべきです。これが15%以上ある企業では、他の内部管理業務も多くなっています。

なぜ、予算管理業務が多くなるのかと言いますと、経営管理部門のほぼ全員が関わるからです。また、通常、予算編成を1月から3月まで長期間に渡ってだらだらと行っているからです。さらに、修正予算編成を行ったり、予算統制に時間をかけたりしているからです。

5.内部管理業務を削減するには

予算編成や予算統制の業務、部下のミス防止や不正防止のためのチェック業務、あるいは社内文書の見栄えを良くする業務などの内部管理業務はできるだけ少ない方が良いのです。では、内部管理業務を削減するにはどうすれば良いでしょうか。

それは、業務コストを明確にすることです。もし、売上や利益を減らさないようにする内部管理業務に多くのコストをかけていることが分かれば、誰でもできるだけ削減しようとするはずです。しかし、多くの企業では内部管理業務を削減しようとしません。その原因はコストが分からないからです。

実際に、費用対効果を計算してみれば分かります。例えば、ミス防止のための業務コストとミス発生による損失コストを比較してみれば、多くの場合はミス防止のための業務コストの方がミス発生による損失コストよりはるかに大きいのです。

ところが、ミス防止や不正防止のためのチェック業務は、多くの企業で過剰に行なわれています。特に金銭に係わる業務は念入りに、ダブルチェック、トリプルチェックが行われています。例えば、良くある例が、既に紹介しました、経費精算、切手や印紙の払い出し管理などです。

これらの業務は廃止しなければなりません。なぜなら、たとえ従業員が不正をしたとしても、不正による損失金額よりも、不正防止のための業務コストの方がはるかに高いからです。

また、従業員を信用することです。出張旅費精算書を細かくチェックしないで、総額だけをチェックして、後は書かれている金額どおりに従業員の口座に振り込むのです。すると、従業員から見れば、会社は自分を信用しているんだと思います。そこで、不正をしないようになります。また、労働意欲も高まり、会社に対する忠誠心も高まります。

既に紹介しましたが、ある企業では、郵便切手が時々紛失するので管理帳簿を付けていました。ところが、管理するための業務コスト(人件費)の方がはるかに高いことが分かったのでこれを廃止しました。また、ある企業では企業内にある図書室に、図書の紛失防止のために管理人を置いていましたが、やはり、図書がなくなる損失よりも管理人の人件費の方がはるかに高いので管理人を置くのを止めました。

社内書類は一部分が間違っていても、作り直さないというルールを作った会社もあります。間違った箇所は気づいた時に上書き修正することにしたのです。また、社内文書については、パワーポイントなどのプレゼンソフトの使用を禁止している会社もあります。パワーポイントは主に見栄えを良くするために使うことが多いので社内書類には必要ないからです。

印鑑は、既に多くの企業で、社内書類には使用していません。現在では多くの企業で社内書類はサインにしています。印鑑はお役所仕事の代名詞です。そのうえ、いわゆる「めくら判」を押したり、部下が代わりに押したりするのは、明らかに形式的であり無意味なのです。印鑑を押す必要がある、取引先やお役所向けの書類は、きちんと権限委譲をして、必ず本人が押すようにすべきです。

ちなみに、サインは本人確認の最も優れた方法ですので、社内文書では多くの企業で使われるようになっているのです。なぜなら、サインは本人の癖が出るので、他人がマネするのは難しいからです。欧米では昔からサインが使われていますが、なぜか、日本では未だに印鑑が使われているのです。

サインだけでなく、本人が書いたことを確認できれば簡単な記号でも良いのです。元々サインは記号のようなものですから。

6.戦いの前線業務に向いている人と向いていない人を区別する

日本のホワイトカラーの労働生産性が低いのは、既に書きましたように、歴史的に培われた集団主義が主な原因です。これは稲作文化から生まれ、生活に根付いた共存共栄の考え方、価値観なので簡単には変えられません。

日本の企業も、農耕民族による共存共栄のための生活集団であって、欧米の狩猟民族による戦闘集団とは異なります。しかし、だからと言って共存共栄が悪いのではありません。いざとなれば全社員が一致団結して事に当たり、ものすごい力を発揮するという良い面があります。ですから、この良い面を生かす必要があるのです。そうすれば労働生産性が高まるのです。

この良い面を生かすために必要なのは、適材適所です。しかし、多くの企業では適材適所と言いながらも実際には適材適所を行っていません。時代の流れについて行けなくなり戦えなくなった人まで、戦うための前線業務(攻めの業務)に従事させていたり、戦いが得意なのに後方支援業務(守りの業務)を押し付けたりしているのです。よって、これらを明確に区別して適材適所にすべきなのです。

「出る杭は打たれる」というのは集団主義による組織の最も悪い点です。やる気のある人の足を引っ張るからです。年を取っていても、戦いができる人や戦いが好きな人は戦いの前線に置くべきであり、若くても戦いが嫌いな人は後方支援に当たらせるべきです。

知識・経験や資格を必要とする業務は、ほとんどが後方支援業務です。なぜなら、アイデアや創造を必要としない業務だからです。しかし、知識・経験があるからと言って、あるいは資格を持っているからと言って後方支援業務に従事させるのは間違いです。本人にとっても会社にとっても損失です。

知識・経験があり、又資格を持っている人の中にも、アイデアを出したり何かを創造することが好きな人もいます。前線業務はこれまで培った知識・経験より、新しい知識や知恵(アイデア)が必要なのです。つまり、創造が必要なわけです。また、前線で戦うことができなくなった人や戦いを止めた人は後方支援業務を行えば良いのです。若い従業員の教育などの後方支援業務も企業にとっては重要な業務です。

以上のような考え方で適材・適所を行えば、集団主義による短所を無くすことができます。また、市場(外部)に向けた業務は内部管理業務より重要ですから、今後はこの内外比率を問題にすべきです。各社の内外比率を調べれば、成長・発展する企業か、衰退する企業かが分かります。筆者のコンサルタントとしての経験では、衰退する企業は内外比率が8:2以上です。つまり内部管理業務が経営管理業務の80%以上です。

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