今回はVVEの基本的な考え方を解説いたします。まず、VVEの定義と目的はVEのそれとまったく同じです。すなわち、日本バリュー・エンジニアリング協会によれば、「VEとは、最低の総コストで、必要な機能を確実に達成するために、組織的に、製品またはサービスの機能の研究を行う方法」です。これがVEの定義ですが、VEの機能(役割)でもあります。。
VEの目的は、「顧客の立場で、製品やサービスの価値を高めること」です。VVEはこの定義と目的に忠実な技術です。VE以上に忠実な技術です。少しでもこの定義と目的に添わないものは断固排除するものです。
ただし、VE技術も発展し、その活用対象も製品やサービスの価値の向上だけでなく、業務価値の向上や企業価値の向上などにも活用されておりますから(ソフトVE)、この定義や目的はすでに古くなっています。そこで改正が必要ですが、現在のところ、日本バリュー・エンジニアリング協会ではサービスを拡大解釈して業務や企業もサービスに含めております。
ここで、改めてVEの目的と機能を整理すると、VEの目的は、「(顧客の立場で、)製品やサービスの価値を高める」ことであり、そのための機能は「(最低の総コストで)必要な機能を(確実に)達成する」ことであり、この機能を果たすための下位の機能が「(組織的に)製品やサービスの機能の研究を行う」ことであるということになります。
かっこ書きの部分は条件です。よって、条件の部分を除くと、
「製品やサービスの価値を高める」⇔「必要な機能を達成する」⇔「製品やサービスの機能研究を行う」
という関係になります。ちなみに、VVEではこのように、条件、目的、機能、下位機能などを明確に区別します。これらが曖昧だと理解が難しくなってしまうからです。実は、VEの欠点の1つはこの点が曖昧なことです。
さて次に、VVEの基本的考え方について説明いたします。顧客は、商品やサービスを購入しようとする時に、その商品やサービスそのものを購入するのではなく、それから得られる効用(便益)を購入するのです。そして、この効用(便益)は、その商品やサービスが備えている機能(役割、働き)を果たすことによって生れるのです。
例えば、扇風機には「涼しくしてくれる」という効用があります。よって、扇風機の目的は「人を涼しくする」です。この効用は、扇風機が「風を発生する」という機能を果たすことによって生れます。顧客は、機能が充分に果たされているか否かによって商品価値があるか無いかを判断します。
また、機能が果たされている度合いによって商品価値の大きさを判断します。扇風機であれば、弱い風しか発生しない扇風機よりも、強い風を発生する扇風機の方を商品価値が高いと判断します。なぜなら、強い風を発生する扇風機の方がより涼しくしてくれるからです。
つまり、商品価値の大きさは顧客の求める効用(便益)の大きさで判断されます。そして、それは商品の持つ機能の達成度合いで商品価値が決まるということになります。
また、顧客は、商品を購入するときに、商品の価格と商品価値とを比較して、どちらが大きいかを検討し、その商品を購入するか否かを決めます。
つまり、商品価値>商品価格であれば購入し、商品価値<商品価格であれば購入しません。
以上の考え方がVVEの基本的な考え方であり、ごく自然の考え方であると思われます。しかし、VEの基本的考え方は全く異なるものです。
<VEとVVEの基本的考え方の違い>
VEでは、製品やサービスの価値を、
価値=機能/コスト(価格)
とし、顧客は製品やサービスの価値の大きさを、その機能とコスト(顧客にとっては価格)との比によって測ると考えます。たとえば、この商品の価値は1.2だとか、0.9だとかです。
また、この式からわかるように、VEでは商品価値はコスト(価格)に反比例すると考えるのです。
一方、VVEではこのような考え方はいたしません。なぜなら、顧客はこのようには考えないからです。顧客は決して商品価値は価格に反比例するとは考えません。「顧客の立場で製品やサービスの価値」を考えてみれば常識的に理解できることです。VVEは、VE以上にVEの定義と目的に忠実なのです。
商品価値は機能とコスト(価格)との関係で測るのではありません。商品価値は、顧客の求める効用の大きさ、つまり商品の備える機能がどの程度果たされるかで測るのです。
また、商品価値と商品価格とは何の関係もありません。全く同じ商品が安い価格で販売されていても、高い価格で販売されていても、商品価値そのものは全く変わりません。ですから、顧客は商品価値と商品価格とを比較してどちらが大きいかを考えるのです。
このことは、我々の常識です。したがって、VEの基本的考え方である「商品価値は商品価格に反比例する」というのは、多くの人にとっては「おかしな考え方」なのです。VEが理解されないのは、いろいろな理由があるのですが、その1つは、最初に出会う基本的な価値概念が常識では理解できないからです。
また、コストは売上との関係から生じる生産者の概念ですので、顧客の立場で考えれば、重要なのは価格であってコストではありません。なお、生産者の立場で考えれば、コスト、商品価格、商品価値の関係は、
コスト<商品価格<商品価値
となるようにしなければなりません。
ところで、VEではジョブプラン(活動ステップ)の中に機能評価というステップがあります。機能を評価することによって商品価値を測定するステップです。しかし、実際には機能を金額で評価し商品価値を比で表すのは難しいので、多くの企業では、価値を相対的に比較し、指数化しています。
そのため、VEでは「価値」を「価値指数」とか「価値の程度」とかと呼んでいます。つまり、「価値」「価値指数」「価値の程度」などを混同して使っております。このように、ことばの使い方が曖昧なのです。これは混乱の元です。
また、VEの基本的な考え方を示した式、「価値=機能/コスト」というのは活動ステップの中では機能評価のステップのときにしか用いません。しかも、この機能評価の目的は、コスト削減などの取組順序や取組範囲を決めるためなのです。つまり、コスト削減などの活動の効率化のために使われるだけなのです。「顧客の立場で機能の達成度を評価する」という本来の機能評価の目的のためではないのです。
では、なぜVEではこの式、価値=機能/コストにこだわるのでしょうか。それは、VEの創始者であるL.D.マイルズさんが、VEにおける価値をこの式のように定義づけたからです。しかし、たとえそうであっても、常識では理解できない考え方であり、しかもVEの目的、「顧客の立場で商品やサービスの価値を高める」に照らして、間違った考え方であれば正すべきだと思います。
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