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開発&コンサルティング

3-8 誰でもできるアイデア発想法

一般に知られているアイデア発想法は100以上あるそうですが、実際に企業でよく使われているのは、BS法(ブレーン・ストーミング法)とKJ法の2つだそうです。実際に、筆者がコンサルティングした多くの会社ではこの2つがよく使われておりました。よって、この2つはビジネスマンであればほとんどの人が知っていると思われます。ちなみに、KJ法は川喜多二郎氏が考案し、そのイニシャルを取ってKJ法と名づけられたものです。

しかし、この2つは本当にアイデア発想法と言えるのでしょうか。BS法は発想するときの注意事項を4つ述べたものですし、KJ法は発想したアイデアをカードに書いて整理する方法でしょう。ですから、アイデアを発想する方法ではないのです。アイデア発想を支援する方法にすぎません。しかも、この2つ以外あまり使われていないということは、アイデア発想法はあまり使われていないということになります。

なぜ、100以上もある、いわゆるアイデア発想法のうち、BS法とKJ法以外、あまり使われないのでしょうか。それは、発想法を習得するのに時間がかかり、また、習得してもアイデア発想ができるとは限らないからでしょう。つまり、時間をかけて習得しても効果がないということです。

では、なぜ発想できないのかを考えてみましょう。アイデアというものは過去に習得した知識ではありません。誰も知らない新しい考えです。発想とは新しい考えを生み出すことです。つまり、創造です。しかし、ちょっと考えてみてください。アイデアが生まれる基となる知識やヒント(手がかり)がなくてアイデアが生まれるでしょうか。頭の中に何も知識やヒントがなくて、新しい考え(アイデア)が生まれるはずがないのです。やはり知識やヒントが大切なのです。知識やヒントがあって始めてアイデアが生まれるのです。アイデアとは知識やヒントを基にして発想するものです。

また、知識と知識とを組み合わせたり、ヒントをきっかけに知識を応用したりしてアイデアが生まれ、それが多くの人に認知されれば新しい知識になるのです。少しの知識でも組み合わせると多くのアイデアが生まれます。なぜなら、多くの組み合わせができるからです。このようにしてアイデアが次々と生まれ、そして、新しい考え方や技術が開発され、文明が発達してきたのだと思います。何も知識やヒントがないところからアイデアが生まれるわけがないのです。

例えば、ハニカム構造というものがあります。飛行機の主翼の断面はハニカム構造になっています。これは、いかに軽くして、すなわち材料をいかに少なくして、いかに強度を高めるか、という研究から生まれたものです。ところが、ハニカム(ハチの巣)から分かるようにハチの巣を真似たものです。つまり、ハチに教えてもらったわけです。

もう1つ例を挙げましょう。最新の新幹線を前方から見ると面白い形をしています。これはカモノハシのくちばしの形だそうです。新幹線が風の抵抗を強く受けてスピードが充分に出ないために、どのようにすれば風の抵抗を少なくできるかを研究したのです。その結果、水中を速く泳ぐカモノハシのくちばしの形が最も良いと分かったそうです。これもカモノハシに教えてもらったわけです。ちなみに、以前はマグロのような、いわゆる紡錘形が最も良いとされていました。しかし、よく調べてみたらカモノハシの方が良いと分かったそうです。

さらに、最近の新幹線のパンタグラフはフクロウの羽を真似て作ったそうです。風の抵抗を少なくするために、フクロウを研究したそうです。なぜフクロウを研究したかと言いますと、フクロウは飛ぶときに羽音が全くしないので、獲物に気付かれずに、獲物を容易に捕えることができるからだそうです。羽音が全くしないのは風の抵抗をなくしているからです。

以上の例でお分かりのように、飛行機や新幹線を設計するための専門知識をいくら持っていても良いアイデアは生まれないのです。アイデアというものは、専門的な知識だけでは生まれないからです。専門外の知識、すなわち異分野の知識が必要なのです。アイデアは専門的な知識と異分野の知識との融合で生まれるのです。つまり、知識と知識の組み合わせで生まれるのです。

ところが異分野は沢山あるので、多くの異分野の知識を持っている人はいません。そのうえ、人間には誰でも思考の関所があるのです。つまり、人間は誰でも、

  1. これまで培われた知識や経験⇒認識の関
  2. これまでの生活環境や生活習慣から育成された考え方や価値観⇒文化の関
  3. 好き嫌いの感情⇒感情の関

などを持っておりますが、これらが逆に発想を妨げる思考の関所ともなるのです。それぞれ、認識の関、文化の関、感情の関と呼ばれています。よって、これらの関所を通り抜けてアイデアを発想することはできないのです。

これらは当たり前のことです。自分が知らないことや経験したことのないことについて発想することはできません。また、自分とは異なる生活環境で育った人や異なる生活習慣の人と同様に発想することはできません。また、自分が嫌いなことについても発想することはできません。では、いろいろな人を集めて、いっしょにアイデア発想すれば良いではないか、と考える人もおられるでしょう。しかし、そうしても難しいのです。

実際に、多くの企業では、課題解決のためにプロジェクト・チームを編成してアイデア発想を行っています。しかし、そうしても良いアイデアが発想できるとは限らないのです。なぜなら、専門分野が限られてしまうからです。例えば、飛行機の主翼の構造を考えるのに、動物の専門家がプロジェクトに参加するでしょうか。新幹線の先頭の形状を考えるのに動物の専門家が参加するでしょうか。世の中には数えきれないほど多くの専門分野があるのです。

また、たとえ数百人の異分野の専門家を集めてプロジェクトチームを編成しても、良いアイデアが出るとは限りません。なぜなら、アイデアというものは、元来、専門分野の知識と異分野の知識とが頭の中で出会ったときに生まれるものですから、1人で多くの異分野の知識を得ていないとダメなのです。そんなこと言っても、1人で多くの異分野の知識を得ることなど出来るわけがないと思うでしょう。何百年かかってもできないと思うでしょう。それが実は数日で出来るのです。

それが、筆者が提案している機能別方法調査です。「5-6 機能別方法調査」で事例を挙げて詳しく説明しますが、ここでは考え方を説明しておきます。ある課題を解決するというのは、実は、機能(役割)を果たす新しい方法を探すことと同じなのです。元来、課題というのは、「◯◯を△△するには」で表現できます。ですから、課題を解決するには、「◯◯を△△する方法」を探せば良いのです。ところが、機能は、「◯◯を△△する」で表現します。よって、課題を解決する方法を探すことと機能を果たす方法を探すことは同じなのです。ですから、課題を機能に置き換えれば良いのです。

また、課題は特定の分野において解決すべきことですが、機能はあらゆる分野に共通する概念なのです。つまり、特定の分野をあらゆる分野に広げて解決方法を探せば良いのです。なぜなら、機能というはあらゆる分野に共通の言葉であり、あらゆる分野を横通しする言葉だからです。よって、あらゆる分野を探せば課題を解決する方法が見つかる可能性があるのです。そこで、課題を機能に置き換え、その機能について、既に世の中に存在する、機能を果たす方法をあらゆる分野で調査します。そのうえで、それらの調査した方法と自分の持つ知識とを組み合わせたり、調査したいろいろな方法を相互に組み合わせたりすることによってアイデア発想するわけです。

特定の機能に絞ってしまえば、1人で多くの異分野の知識やヒントを短時間で得ることが出来るのです。アイデア発想するのが課題別(機能別)ですから、知識を得るのも機能別で良いのです。機能別方法調査は1人でなくてもできます。多くの異分野を数人で手分けして調査し、調査した後に調査結果を説明し合い、それらの知識やヒントを共有すれば良いのです。そうすれば、異分野の知識やヒントを得るのに時間は余りかかりません。また、アイデア発想してみて、アイデアが充分に出ないようでしたら、さらに別の分野を調査する、というように調査範囲を拡大しながらアイデア発想を進めていけば良いのです。

この機能別方法調査は専門分野以外の知識やヒントを得て、アイデア発想をしやすくするために行うわけですから、まず課題を明確にしておく必要があります。例えば、「主翼の構造を軽くて強くするには」というように課題を明確にしておきます。そして、これを機能に置き換えます。機能は、「構造を軽くて強くする」です。よって、「構造を軽くて強くする方法」を世の中のあらゆる分野から探すのです。建築、機械、電気、化学、動物、植物・・・と考えられるあらゆる分野で探すのです。探した結果、使えそうな方法について1つひとつ検証します。その結果、軽くて強い構造を持つハチの巣が発見できるというわけです。ちなみに、どの程度軽くて、どの程度強くするかを定量的に表したものは機能条件となります。

ところで、あの有名な発明家エジソンは、アイデア発想法を学んだからアイデア発想が出来るようになったのではありません。「電球を長時間発光させるには」という課題を解決するために、多くの方法を調査したのです。実に、6,000件以上の方法について試作や実験を繰り返し、そしてついに、課題を解決する方法を発見したのです。このことはエジソンの伝記を読んでみれば良く分かります。機能別方法調査によるアイデア発想法は実はエジソンのアイデア発想法にヒントを得たものです。ただし、エジソンと同じように手当たり次第に調査するのではありません。特定の専門分野の課題を解決するために、特定の機能についてあらゆる分野で調査するのです。元来、機能というのはあらゆる分野に共通の概念です。特定の機能であっても機能は本来あらゆる分野に共通なのです。調査する機能は1つだけなので、調査する分野は広くなりますが調査範囲は狭いのです。ですから、数日であらゆる分野を調査できるのです。

機能別方法調査というのは、アイデア発想のための当たり前の考え方であり、誰でもできる発想法です。多くの企業ではこの当たり前の発想法を行っていないために良いアイデアが出ないのです。身近にいる社内の専門家だけに頼るから良いアイデアが出ないのです。むしろ、社内の専門家は頼らない方がいいです。なぜなら、専門家というのは、どうしたらできるかを考えないで、できない理由ばかり考える傾向があるからです。世界中のあらゆる分野の「機能を果たす方法」を調査してそれらを活用すれば良いのです。しかも、数百年、数千年と積み重ねられた知識を活用すれば良いのです。しつこいようですが、機能別方法調査というのは何も特別な発想法ではありません。当たり前の方法です。しかし、効果抜群です。しかも、専門家でなくても誰でもできる方法です。ですから是非、実施してください。

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